院長コラム
両顎手術は保険でできる?費用・期間・メリットとデメリットを医師が解説
目次
両顎手術とは?噛み合わせと輪郭を整える手術
両顎手術(りょうがくしゅじゅつ)とは、上顎と下顎の骨を移動させ、噛み合わせや顔の輪郭を整える外科的な治療法です。
医学的には「顎変形症(がくへんけいしょう)」の治療として行われることが多く、手術方法には Le Fort I型骨切り術(ルフォーⅠ) と 下顎枝矢状分割術(BSSOまたはSSRO) が代表的です。
美容目的だけでなく、「噛み合わせ」「発音」「顎関節の負担」など、機能面の改善を目的とする手術でもあり、顎の位置や骨格のバランスを整えることで、美しい輪郭と正しい咬合を同時に目指します。
保険で両顎手術を行う条件と流れ
保険適用となる両顎手術には、いくつかの明確な条件があります。
最大のポイントは、「顎変形症」という診断名がつくこと。この病名がつくことで、手術だけでなく「矯正治療」も保険の対象となります。
保険適用の主な条件
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顎変形症と診断されること
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術前矯正(最低6か月以上)が行われていること
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手術で骨の位置を移動し、噛み合わせを再構築すること
術前矯正とは、手術に向けて歯の位置を整える矯正治療のことです。
通常2〜3年、長い方では5年ほどかかるケースもあり、この期間を経て手術に進みます。
一部の施設では「6か月で一旦矯正を止めて手術を先に行う」方法を採用している場合もありますが、一般的には長期の術前矯正が必須条件です。
保険診療で両顎手術を行うメリット
経済的負担が大幅に軽減される
最大のメリットは、やはり費用負担の少なさです。
保険診療では3割負担で手術・入院・矯正が受けられ、さらに高額療養費制度が適用されるため、実質的な自己負担額は数十万円程度に抑えられます。
機能面の改善を重視した治療
保険で行う場合は「咬合(噛み合わせ)」を中心に治療計画が立てられます。
そのため、見た目だけでなく、「噛みやすさ」「発音」「顎の動き」などの機能回復に重点が置かれます。
噛み合わせを評価した上で顎の位置を整えるため、長期的な安定性にも優れています。
保険診療で行うデメリットと制限
長期の術前矯正が必要
前述の通り、保険での両顎手術では術前矯正が必須で、平均2〜3年かかります。
矯正期間中は、噛み合わせが一時的に合わなくなったり、食事がしづらい期間が続くこともあります。
この「長い待機期間」が、保険手術最大のハードルです。
美容的形成(輪郭形成)は原則できない
もう一つの制限は、輪郭形成(骨削りやVライン形成など)を同時に行えない点です。
保険ではあくまで「顎変形症の改善」が目的であり、美容目的の輪郭整形は対象外です。
多くの施設では、プレート除去の際(術後半年〜1年)に必要があれば形成を追加する形を取っています。
自由診療(自費)で行う両顎手術の特徴
一方で、自由診療として行う両顎手術では「サージェリーファースト」と呼ばれる治療法が主流です。
サージェリーファーストとは?
サージェリーファーストは、術前矯正を行わず先に手術を行う方法です。
手術後に噛み合わせを整える「術後矯正」を行うスタイルで、全体の治療期間を大幅に短縮できます。
骨を移動させた直後は、骨の再生が活発になるため、矯正効果が早く出やすく、術後矯正は約1年程度で完了するケースが多いです。
手術と輪郭形成を同時に行える
自由診療では、上顎(Le Fort I)、下顎(BSSO)、そしてオトガイ形成(顎先)の3つを同時に行うことが可能です。
これにより、1回のダウンタイムで「顔全体のバランス」を整えることができ、美容的にも機能的にも理想に近い輪郭をデザインできます。
また、「短縮時の角を落とす」「エラを軽く削る」「ミニVライン形成を加える」などの微調整も可能。
自由度の高いデザイン性が、自由診療ならではの魅力です。
自由診療のメリットとデメリット
メリット
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術前矯正なしで早期に手術できる
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輪郭形成を同時に行える
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ダウンタイムが1回で済む
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美容面の希望を反映したデザインが可能
デメリット
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保険が使えないため費用が高額(200〜400万円前後)
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噛み合わせが一時的に不安定になる期間がある
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クリニックや術者の技量に差がある
費用面では大きな差がありますが、治療期間の短縮・仕上がりの自由度を重視する方に選ばれています。
保険と自費、どちらが向いているか?
両顎手術は、目的によって最適な選択が変わります。
機能改善が主目的(顎変形症)であれば保険診療、審美的デザインやVライン形成を求める方は自由診療が向いています。
また、最近では「保険適用の基準を満たしているが、サージェリーファーストで早く治したい」という理由から、自由診療を選択するケースも増えています。
治療方法や手術時期、矯正の進め方など、希望に合わせた治療計画を立てることが大切です。
判断に迷う場合は、顎変形症・輪郭手術の経験が豊富な医師に相談し、
「保険・自費の両方の見積り」を比較するのがおすすめです。
よくある質問(Q&A)
Q1. 保険での両顎手術はいくらくらいかかりますか?
A. 高額療養費制度を利用すると、自己負担は20〜30万円前後に収まるケースが多いです。入院・矯正費を含めても、自費と比べて大幅に軽減されます。
Q2. サージェリーファーストの治療期間はどのくらいですか?
A. 術後矯正を含めて約1〜1年半が目安です。従来の矯正先行型(保険適用)よりも2〜3年短縮できます。
Q3. 保険と自費では仕上がりに違いがありますか?
A. 保険では咬合改善が中心のため、見た目の変化は限定的です。自由診療では輪郭形成を同時に行えるため、美容面でも理想に近づけやすくなります。g
Q4. 自由診療でも安全性はありますか?
A. 安全性は術者の経験と設備環境に大きく左右されます。医師の経歴や技術、院内設備、麻酔管理や感染対策を含め、信頼できる医療機関を選ぶことが重要です。
Q5. 手術後どのくらいで社会復帰できますか?
A. 一般的には2〜3週間で日常生活が可能です。腫れやしびれは1〜3か月かけて徐々に改善します。
監修者情報

宮﨑 邦夫
リノクリニック東銀座 院長【資格・所属学会】
日本外科学会専門医 / 日本外科学会会員 / 日本形成外科学会会員 / 日本頭蓋顎顔面外科学会会員 / 日本美容外科学会会員
消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・小児外科など外科研修ののち、外科専門医を取得。その後、形成外科で6年、美容外科で7年実績を積み、リノクリニック東銀座を開業、院長を務める。美容外科の技術は韓国や台湾、アメリカなどへ出向き、良質な技術を取り入れて日々の診療に生かしている。 2014年から在籍していた湘南美容クリニックでは指導医として若手美容外科医の教育にも尽力し、同院で行われた美容外科コンテストで2年連続ではグランプリを獲得。次の東京美容外科では骨切りメニューの立ち上げを行い、スタッフ教育にも尽力した。
監修日:2025.10.12