院長コラム

両顎手術における自己血輸血とは?安全性と実際の流れを解説

両顎手術と自己血輸血の関係

両顎手術は、噛み合わせや顔貌改善を目的として顎の骨を切り、位置を調整する大きな外科手術です。手術規模が大きいため、一定の出血は避けられません。

平均出血量は100〜200ml程度とされていますが、骨切り範囲が広い場合や患者さんの状態によっては300〜400mlに及ぶこともあります。

このため、多くの病院やクリニックでは「自己血輸血(autologous blood transfusion)」を導入しています。

これは自分自身の血液を使う方法であり、他人の血液を使う同種血輸血と比べ、感染症や免疫反応などのリスクを大幅に回避できるのが特徴です。

自己血輸血を行う理由

「出血が少ないのに、なぜ自己血輸血が必要なのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。

実際、大学病院などでも200ml前後の出血であれば輸血を行わないケースもあります。

しかし、両顎手術は骨を複数箇所で切除・移動するため、出血リスクが通常の輪郭手術よりも高いのが事実です。万が一に備え、安全性を最大限に高める目的で自己血輸血が行われています。

さらに、手術中に使う血液が「自分の血液」であるという点は、心理的な安心感にもつながります。

自己血輸血の種類と方法

自己血輸血には大きく分けて2種類の方法があります。

貯血式自己血輸血

手術の約1ヶ月前に400mlの血液を採取し、保存しておく方法です。必要に応じて800mlまで採取することもあります。

  • スケジュール管理が必要:採血後30日を超えると血液の質が低下するため、手術日程との調整が欠かせません。

  • 貧血対策:採血から2週間後に血液検査を行い、貧血の有無を確認します。改善が不十分な場合、エジポンなど造血作用のある薬剤を投与して本番に備えます。

この方法のメリットは「術前から十分な量を準備できる」ことですが、複数回の通院や保存による血液の劣化といったデメリットも存在します。

希釈式自己血輸血

リノクリニック東銀座で導入しているのが「希釈式自己血輸血」です。全身麻酔導入後に400mlの血液を採取し、その後は点滴で体液を補いながら手術を進め、閉創の際に採取した血液を体に戻します。

メリットは以下の通りです。

  • 採血時の痛みを感じない(麻酔下で行うため)

  • 採取直後の血液を戻すため新鮮で凝固能が保たれている

  • 出血した場合でも“薄められた血液”が流れるためロスが少ない

一方、手術開始前から400ml相当の出血状態になるため、麻酔科医には高度な水分・血圧管理が求められます。したがって、経験豊富な麻酔科医の存在が安全性の鍵を握ります。

当院では、希釈式自己血輸血に熟練した麻酔科専門医が手術中の麻酔管理を担当しております。患者様の安全と安心を第一に考え、万全の体制で手術に臨んでおります。

他の手術での自己血輸血の活用

自己血輸血は両顎手術だけでなく、整形外科手術(人工関節置換術、脊椎手術)、心臓手術、大規模な形成外科手術などでも用いられています。特に出血量が多いと予想される手術では、自己血輸血を事前に準備することで、同種血輸血を避けられる大きな利点があります。

同種血輸血との比較

自己血輸血と同種血輸血には、それぞれメリット・デメリットがあります。

  • 自己血輸血:感染症リスクがない、自分の血なので拒絶反応もない。ただし採血による貧血や保存劣化のリスクがある。

  • 同種血輸血:必要時にすぐ使用できる。ただし感染症や免疫反応、輸血後合併症のリスクがある。

両顎手術のように「大量出血はまれだがゼロではない」というケースでは、自己血輸血のメリットが大きいといえます。

両顎手術の流れと自己血輸血

実際の両顎手術における自己血輸血の流れを簡単にまとめます。

  1. 全身麻酔

  2. 麻酔下で400ml貯血(希釈式の場合)

  3. 手術を開始(骨切りによる出血は100〜200ml程度)

  4. 手術の閉創時に貯血した血液を体内に戻す

  5. 凝固能の改善と循環血液量の安定化が得られる

このように、手術の安全性と術後の回復スピードを高めるための工夫が組み込まれています。

患者さんがよく抱く不安と対応

カウンセリングでは以下のような質問をよくいただきます。

Q.血を抜かれて体調は大丈夫ですか?」
A. 麻酔下で行うため痛みはなく、輸血も手術終了前にすぐ戻すので心配はいりません。

Q.輸血しないと危険ですか?
A.必ずしも必要ではありませんが、リスク回避と安心感のため準備しています。

Q.保存血とフレッシュな血液の違いは?
A.保存血とは、採血後に数日〜数週間冷蔵保存された血液を指します。保存期間が延びるにつれて、血液が劣化する可能性があります。そのため輸血後に循環する赤血球の機能が一部低下し、酸素供給効率が下がる可能性があります。

一方、希釈式自己血輸血で用いる血液は手術直前に採取した新鮮血であり、保存障害を受けていないため赤血球機能が保たれています。酸素運搬能に優れ、輸血後の回復も良好で、安全性の面で優位性があります。

実際の症例から見た出血量

リノクリニックで集計した結果、両顎手術の平均出血量は約200mlでした。最小で80ml、多くても300〜400ml程度。数値だけを見れば輸血不要ともいえますが、万が一の出血に備えることが患者安全につながります。特にリスク管理を徹底したい方には自己血輸血が適しています。

両顎手術における安全対策

自己血輸血に加え、当院では以下の安全対策を徹底しています。

  • 出血を最小限に抑える骨切り技術

  • 手術時間短縮による全身負担の軽減

  • 経験豊富な麻酔科医とのチーム体制

  • 術後回復を早める管理プロトコル

両顎手術は大規模な手術ですが、こうした工夫を組み合わせることで、患者さんが安心して治療に臨める環境を整えています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 自己血輸血は必ず行うのですか?
A. 当院では両顎手術のように骨切り範囲が広い手術では、安全性を高めるため行っております。

Q2. 採血は痛みを伴いますか?
A. 希釈式の場合、手術日の全身麻酔後に採血するため痛みは一切感じません。

Q3. 輸血にリスクはありますか?
A. 同種血輸血には感染症や免疫反応のリスクがありますが、自己血輸血ではそれらを回避できます。

Q4. 貯血式と希釈式はどちらが良いのですか?
A. 貯血式は事前に準備できるメリットがありますが保存劣化のリスクも。希釈式は当日に輸血した新鮮な血液を使える点で有利です。

Q5. 術後の回復に影響しますか?
A. 希釈式自己血輸血では新鮮血を戻すことで凝固能が改善し、術後の出血リスクや回復速度に良い影響を与えると考えられます。

当院では、骨切り手術を安心してお受けいただけるよう、安全面への配慮を徹底しています。大きな手術を前に不安を抱える患者様も多いと思いますが、院長の宮﨑が術前のカウンセリングから術後のフォローアップまで責任を持って関わり、患者様一人ひとりに寄り添った医療を提供いたします。

常に「患者ファースト」を基本に、信頼いただける医療を目指しております。

希釈式自己血輸血の解説動画(YouTubeへ移動)

YouTubeはこちらから

監修者情報

宮﨑 邦夫

リノクリニック東銀座 院長

【資格・所属学会】
日本外科学会専門医 / 日本外科学会会員 / 日本形成外科学会会員 / 日本頭蓋顎顔面外科学会会員 / 日本美容外科学会会員

消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・小児外科など外科研修ののち、外科専門医を取得。その後、形成外科で6年、美容外科で7年実績を積み、リノクリニック東銀座を開業、院長を務める。美容外科の技術は韓国や台湾、アメリカなどへ出向き、良質な技術を取り入れて日々の診療に生かしている。 2014年から在籍していた湘南美容クリニックでは指導医として若手美容外科医の教育にも尽力し、同院で行われた美容外科コンテストで2年連続ではグランプリを獲得。次の東京美容外科では骨切りメニューの立ち上げを行い、スタッフ教育にも尽力した。

監修日:2025.08.23

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