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メトホルミンで低血糖は起こりにくい?注意点と対処法

メトホルミンは、2型糖尿病の治療に広く用いられる経口血糖降下薬です。特に肥満のある方やインスリン抵抗性が強い方に対して、血糖値を効果的に下げる働きが期待できます。しかし、糖尿病治療薬と聞くと「低血糖が怖い」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。メトホルミンは他の薬と比べて低血糖を起こしにくいとされていますが、全くリスクがないわけではありません。この記事では、メトホルミンによる低血糖のリスクやその原因、具体的な症状、そして万が一低血糖になった場合の正しい対処法や予防策について、医師監修のもと詳しく解説します。安全にメトforminを服用するために、ぜひ最後までお読みください。

目次

メトホルミンは低血糖を起こす薬?リスクについて

メトホルミンは、多くの糖尿病患者さんに処方される機会が多い薬です。その作用機序から、他の種類の血糖降下薬と比較すると、単独での低血糖リスクは低いとされています。しかし、全く低血糖を起こさないわけではなく、特定の条件下や他の薬剤との併用によっては注意が必要です。

メトホルミンが血糖値を下げる仕組み

メトホルミン(ビグアナイド薬に分類されます)が血糖値を下げる主な仕組みは、以下の通りです。

  • 肝臓からの糖放出を抑える: 肝臓は通常、血液中の血糖値が下がらないように、ブドウ糖を新しく作り出したり、貯蔵しているグリコーゲンを分解してブドウ糖として血液中に放出したりしています。メトホルミンは、この肝臓でのブドウ糖の産生と放出を抑制します。これにより、特に食後や空腹時の過剰な糖放出を抑え、血糖値の上昇を穏やかにします。
  • 筋肉などでの糖の取り込みを促進する: 筋肉や脂肪細胞などの末梢組織が、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込んで利用する働きを助けます。これは、インスリンの働きを助ける(インスリン抵抗性を改善する)作用によるものです。ブドウ糖が血液中から細胞内に移動することで、血糖値が下がります。
  • 消化管からの糖吸収を遅らせる: 食事から摂取した糖質が消化管で吸収される速度を穏やかにする作用も報告されています。これにより、食後の急激な血糖値の上昇(血糖スパイク)を抑える効果も期待できます。

これらの作用を通じて、メトホルミンは体全体の血糖バランスを整え、血糖値をコントロールします。重要な点は、メトホルミンがインスリンの分泌を直接的に促進する薬ではないということです。

メトホルミン単独での低血糖リスクは低い

血糖降下薬の中には、膵臓のβ細胞に働きかけ、インスリン分泌を強制的に促すタイプの薬(スルホニル尿素薬など)があります。インスリンは血糖値を下げるホルモンですが、薬によって過剰に分泌されると、必要以上に血糖値が下がりすぎてしまい、低血糖を引き起こすリスクが高まります。

一方、メトホルミンは前述のように、インスリンの分泌を直接刺激するのではなく、インスリンの効きを良くしたり、肝臓からの糖放出を抑えたりすることで血糖値をコントロールします。そのため、血糖値が正常な状態や、極端に低い状態であっても、それ以上に血糖値を大きく下げてしまう可能性が比較的低いと考えられています。このため、メトホルミン単独での服用では、他の血糖降下薬に比べて低血糖を起こすリスクは一般的に低いとされています。これは、インスリン分泌を直接的に刺激しないというメトホルミンの作用機序によるものです。

他の血糖降下薬との併用によるリスク増加

メトホルミン単独では低血糖リスクは低いものの、他の種類の血糖降下薬と併用する場合には、低血糖のリスクが高まることがあります。特に注意が必要なのは、以下のような薬との併用です。

  • スルホニル尿素薬(SU薬): グリメピリド(アマリール)、グリクラジド(グリクラ)、グリベンクラミド(ダオニール、オイグルコン)など。これらの薬は膵臓に働きかけ、インスリン分泌を強く促進するため、メトホルミンと併用すると、血糖降下作用が強まりすぎて低血糖が起こりやすくなります。
  • 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬): ナテグリニド(スターシス、ファスティック)、ミチグリニド(グルファスト)など。SU薬と同様にインスリン分泌を促しますが、作用時間が短いのが特徴です。これらの薬もメトホルミンと併用することで低血糖リスクが高まります。
  • インスリン製剤: 自己注射でインスリンを補充する治療を行っている場合。メトホルミンとインスリンの併用は、血糖コントロールを改善するために広く行われますが、インスリンの量やタイミング、食事とのバランスが崩れると低血糖のリスクが生じます。
  • 一部のDPP-4阻害薬: シタグリプチン(グラクティブ、ジャヌビア)、ビルダグリプチン(エクア)、リナグリプチン(トラゼンタ)など。これらの薬はインスリン分泌を助ける働きがありますが、メトホルミンとの併用により低血糖リスクが高まる可能性があります。
  • 一部のSGLT2阻害薬: イプラグリフロジン(スーグラ)、ダパグリフロジン(フォシーガ)など。これらの薬は尿中に糖を排泄させることで血糖を下げますが、他の血糖降下薬、特にインスリンやSU薬、あるいはメトホルミンとの併用により、低血糖のリスクが高まる場合があります。

これらの薬剤以外にも、糖尿病治療薬には様々な種類があり、併用することで低血糖のリスクが高まる場合があります。複数の糖尿病治療薬を服用している方、あるいはメトホルミン以外の血糖降下薬を追加で服用することになった場合は、必ず医師や薬剤師に低血糖のリスクや注意点について確認するようにしましょう。ご自身の服用している薬の名前や種類を把握しておくことが重要です。

メトホルミンで低血糖が起こりやすいケース

メトホルミン単独での低血糖リスクは低いとはいえ、特定の条件下ではリスクが高まります。どのような場合に注意が必要なのかを知っておくことは、低血糖の予防に役立ちます。

食事量が少ない、または欠食した時

メトホルミンは、食事を介して体内に取り込まれる糖の処理を助けたり、肝臓からの糖の放出を抑えたりすることで効果を発揮します。しかし、食事量が極端に少なかったり、薬を服用するタイミングで食事を抜いてしまったりすると、体内に十分な糖質が供給されないにも関わらず、薬の作用によって血糖値が低下する可能性があります。

特に、メトホルミンは通常、食事と同時に服用するか、食直後に服用することが推奨されます。これは、食事によって血糖値が上昇するタイミングで薬が作用するようにするためです。もし薬を飲んだ後に食事を全く摂らなかったり、ごく少量しか摂らなかったりすると、薬の作用だけが働き、低血糖を引き起こすリスクが高まります。体調が悪く食事が十分に摂れない場合(シックデイなど)は、特に注意が必要です。

空腹時や激しい運動を行った時

空腹時は、体内の糖が枯渇しやすい状態です。このような状態でメトホルミンを服用したり、あるいは薬の効果が持続している間に激しい運動を行ったりすると、通常よりも血糖値が下がりやすくなることがあります。

運動は血糖値を下げる効果があるため、糖尿病治療において推奨される要素の一つです。しかし、メトホルミン服用中に空腹で運動したり、普段よりも長時間・高強度の運動をしたりすると、運動による糖消費と薬の作用が相まって、低血糖を招く可能性があります。特に、インスリンやSU薬など他の血糖降下薬を併用している場合は、運動時の低血糖リスクはさらに高まります。運動する際は、事前に食事をしっかり摂るか、運動中に補食(ブドウ糖や炭水化物を含むもの)を携帯するなどの対策を講じることが重要です。運動量やタイミングについては、事前に医師と相談しておくと良いでしょう。

アルコールを過剰摂取した時

アルコールは、肝臓での糖を作る働き(糖新生)を抑制する作用があります。通常、私たちの体は空腹時などに肝臓が糖を作り出すことで、血糖値が下がりすぎるのを防いでいます。しかし、アルコールを飲みすぎると、この肝臓の働きが阻害され、血糖値が下がりやすくなってしまいます。

メトホルミンも肝臓からの糖放出を抑える作用があるため、アルコールを過剰に摂取した状態でメトホルミンを服用していると、両方の作用が重なり、より一層血糖値が下がりやすくなり、重篤な低血糖を招く危険性があります。特に、空腹時の飲酒や、大量の飲酒は非常に危険です。メトホルミン服用中の飲酒は、適量に留めるか、できるだけ控えるようにしましょう。具体的な飲酒量については、医師に相談し指示を受けてください。

腎機能が低下している場合

メトホルミンは、主に腎臓から体の外に排泄される薬です。腎機能が低下していると、薬がうまく排泄されずに体内に蓄積されやすくなります。体内に薬が多く留まるということは、薬の作用が必要以上に強く出てしまう可能性があるということです。

メトホルミンの作用が強まりすぎると、血糖値が下がりすぎて低血糖のリスクが高まるだけでなく、メトホルミンの最も重篤な副作用である「乳酸アシドーシス」という状態を引き起こすリスクも著しく上昇します。そのため、腎機能が低下している患者さんには、メトホルミンの投与量に制限があったり、投与自体が禁忌となったりする場合があります。定期的な腎機能検査を受け、医師の指示通りに服用することが非常に重要です。腎機能の数値(eGFRなど)を把握しておくことも大切です。

腎機能低下以外にも、肝機能障害、心臓や肺の機能障害がある場合、脱水状態、高齢者なども低血糖や他の副作用のリスクが高まる可能性があり注意が必要です。持病や体調の変化については、必ず医師や薬剤師に伝えるようにしましょう。

メトホルミンによる低血糖の主な症状

低血糖の症状は、血糖値がどのくらい下がったかによって異なります。一般的に、血糖値が70mg/dL未満になると、体の警告サインとして様々な症状が現れ始めます。さらに血糖値が低くなると、脳に必要なブドウ糖が不足し、より重篤な症状が現れます。メトホルミン服用中にこれらの症状が現れた場合は、低血糖を疑い、速やかに対処することが重要です。

低血糖の初期症状(血糖値70mg/dL未満)

血糖値が70mg/dL未満になると、体は血糖値を上げようとしてアドレナリンなどのホルモンを分泌します。このホルモンの影響で現れるのが、低血糖の初期症状です。比較的早く自覚できることが多いですが、個人差があります。

  • 空腹感: 急に強くお腹が空いたように感じます。
  • 脱力感、倦怠感: 体に力が入らない、だるさを感じます。
  • 発汗: 冷や汗をかきます。特に手のひらや額に多く見られることがあります。
  • 動悸、脈が速くなる: 心臓がドキドキしたり、脈が速くなったりするのを感じます。
  • 手の震え: 指先や手が細かく震えます。
  • 不安感、イライラ: 落ち着きがなくなり、不安を感じたり、イライラしたりします。
  • 顔面蒼白: 顔色が悪くなることがあります。

これらの症状は、血糖値がまだ比較的高い段階で現れるため、自己判断での対処が可能です。しかし、これらのサインを見逃さず、早期に「これは低血糖かもしれない」と気づくことが重要です。少しでも低血糖が疑われる症状が出たら、まずは血糖測定(可能であれば)を行い、基準値以下であれば速やかに対処しましょう。

低血糖が進行した場合の症状(血糖値50mg/dL未満)

血糖値がさらに低下し、50mg/dL未満になると、脳に必要なブドウ糖が不足し始め、中枢神経系の症状が現れます。この段階になると、自分で適切に対処することが難しくなる場合があります。

  • 頭痛: 原因不明の頭痛が現れます。
  • 目のかすみ、物が二重に見える: 視覚に異常が現れることがあります。
  • 集中力低下、思考力低下: 物事に集中できなくなったり、考えがまとまらなくなったりします。仕事や勉強中に気づくこともあります。
  • 眠気、あくび: 異常な眠気を感じたり、頻繁にあくびが出たりします。
  • 口の周りのしびれ感: 唇や舌、口の中がピリピリとしびれるように感じることがあります。
  • 酩酊感、ふらつき: お酒に酔ったように、ふらついたり、まっすぐ歩けなくなったりします。運転中などは非常に危険です。
  • ろれつが回らない: 言葉がうまく話せなくなります。
  • 異常行動: 意味不明な言動をしたり、普段とは違う行動をとったりすることがあります。攻撃的になる、急に走り出すなど、本人には自覚がないこともあります。

この段階まで進行すると、ご家族や周囲の人が異変に気づいて対応する必要が出てくる場合があります。ご家族にも、低血糖の症状について知っておいてもらうと安心です。特に「なんだか変だな」「様子がおかしいな」と感じたら、低血糖を疑うサインかもしれません。

重症低血糖の危険性

血糖値が著しく低下すると、命にかかわる重篤な状態になる可能性があります。これが重症低血糖です。

  • 意識消失: 呼びかけに応じない、意識がなくなる状態です。倒れてしまうこともあります。
  • 痙攣: 体がひきつけを起こします。てんかん発作と間違われることもありますが、低血糖による可能性を疑う必要があります。

重症低血糖に至ると、脳に回復不能なダメージを与える可能性があり、速やかに医療機関での処置が必要です。意識を失った場合、口からブドウ糖や飲食物を与えるのは誤嚥(気管に入ってしまうこと)の危険があるため絶対に行わないでください。すぐに救急車(119番)を要請しましょう。

糖尿病患者さんは、常に低血糖の症状を意識し、症状が現れたらすぐに血糖値を測定するか、または低血糖と判断して対処することが重要です。「この症状は低血糖かな?」と迷うような時でも、念のため対処しておく方が安全です。特に、長期間糖尿病を患っている方や、自律神経障害がある方の中には、低血糖の警告症状が出にくくなる「無自覚性低血糖」となる場合があります。このような方は、定期的な血糖測定をより一層丁寧に行う必要があります。無自覚性低血糖が疑われる場合は、必ず医師に相談してください。

以下に、血糖値のレベルと症状の目安、基本的な対処をまとめます。

血糖値の目安 症状 対処
70mg/dL未満 空腹感、発汗、動悸、震え、脱力感、不安感、顔面蒼白、眠気、集中力低下、目のかすみなど(警告症状) 自分で対処可能。ブドウ糖10gまたは砂糖20gを摂取。
50mg/dL未満 頭痛、吐き気、酩酊感、ふらつき、ろれつが回らない、異常行動、強い眠気など(中枢神経症状) 自分で対処が難しい場合がある。 周囲の人の助けが必要なことも。糖質摂取。
著しい低血糖 意識消失、痙攣 自分で対処不可。非常に危険な状態。直ちに救急車を要請。 口から何も与えない。

※血糖値や症状には個人差があり、必ずしもこの通りに進行するとは限りません。

メトホルミンで低血糖が起きた時の対処法

メトホルミンを服用中に低血糖の症状を感じたり、血糖測定で血糖値が70mg/dL未満であった場合は、迅速かつ適切に対処することが非常に重要です。正しい対処法を知っておけば、重症化を防ぐことができます。

自分で対処できる場合の対応(ブドウ糖摂取)

低血糖の初期症状が現れて自分で対処できる状態であれば、速やかに糖質を摂取して血糖値を上げましょう。

摂取すべき糖質の量と種類

  • ブドウ糖: 最も早く血糖値を上げる効果があるため推奨されます。ブドウ糖として10gを摂取するのが目安です。ブドウ糖タブレット(コンビニや薬局で購入可能)や、ブドウ糖を多く含む食品(例: ブドウ糖入り清涼飲料水、スポーツドリンクなど)で摂取するのが理想的です。
  • 砂糖: ご家庭にブドウ糖がない場合は、砂糖(ショ糖)20gでも代用できます。砂糖は体内でブドウ糖と果糖に分解されて吸収されますが、ブドウ糖に比べて効果が出るまでに少し時間がかかります。砂糖を水に溶かして飲むのが最も効果的です。ジュース(100%オレンジジュースやリンゴジュースなど)やお菓子(キャラメル、キャンディなど)でも摂取できますが、食物繊維や脂肪が多いものは血糖値の上昇を遅らせるため、低血糖対処には避けた方が良い場合もあります。特にチョコレートは脂肪が多く吸収が遅いので低血糖対処には向きません。和菓子や菓子パンも血糖値は上がりますが、効果がゆっくりだったり、糖質量が多かったりするため、やはりブドウ糖や砂糖が推奨されます。

具体的な対処ステップ

  1. 低血糖の症状を確認する、または血糖測定で70mg/dL未満を確認する。「おかしいな」と感じたら、まず低血糖を疑いましょう。
  2. 速やかにブドウ糖10gまたは砂糖20gを摂取する。 バッグや職場の引き出し、寝室などに常備しておきましょう。
  3. 安全な場所で休憩する。 座るか横になり、無理に動き回らず、安静にして回復を待ちましょう。運転中や作業中は、すぐに中断して安全を確保してください。
  4. 15分待つ。 糖質が吸収されて血糖値が上昇するまで待ちます。焦らず待ちましょう。
  5. 血糖値を再測定する(可能であれば)。 症状が改善したか確認するとともに、血糖値が回復したか測定します。まだ70mg/dL未満で症状が改善していない場合は、再度ブドウ糖10gまたは砂糖20gを摂取し、再び15分待ちます。 これを繰り返します。
  6. 回復したら、次の食事まで時間がある場合は、軽い食事(パン、おにぎりなど)を摂る。 これは、摂取した糖質がすぐに消費されてしまい、再び血糖値が下がるのを防ぐためです。

常にブドウ糖や砂糖を持ち歩く習慣をつけておくと安心です。特に外出時や運動時、車を運転する際などは必須と考えましょう。

対処しても改善しない場合や重症時の対応

上記の方法で対処しても症状が改善しない場合や、以下のような重症低血糖の状態になった場合は、速やかに医療機関の受診または救急要請が必要です。

  • 意識が朦朧としている、または意識がない
  • 痙攣を起こしている
  • 自分で糖質を摂取できない(口から飲食物を摂取させようとしても吐き出してしまうなど)

対応

  1. 直ちに救急車(119番)を要請する。 低血糖であることを伝え、糖尿病治療中であること、服用中の薬(メトホルミンなど)を伝えることが重要です。可能であれば、服用している薬を持参してもらいましょう。
  2. 意識がない場合は、絶対に口に飲食物や薬などを入れない。 誤嚥の危険があり、窒息する可能性があります。
  3. 可能であれば、横向きに寝かせる。 吐いたものが気管に入らないようにするためです。気道を確保することも重要です。
  4. グルカゴン注射キットを持っている場合: 医師から事前に指導を受けている場合は、ご家族などがグルカゴンを注射します。グルカゴンは肝臓に働きかけ、蓄えられている糖を血液中に放出させて血糖値を上げる注射薬です。意識が回復する可能性がありますが、注射後も速やかに医療機関を受診する必要があります。グルカゴン注射はすべての糖尿病患者さんに処方されるわけではありません。重症低血糖のリスクが高い患者さんに対して、医師が必要と判断した場合に処方されます。
  5. 医療機関到着後: 医療スタッフにより、ブドウ糖の点滴などの処置が行われます。

低血糖は時間との勝負になる場合があります。重症化する前に、あるいは重症化した場合でも慌てず、周囲の人も含めて正しい対処法を知っておくことが、患者さん自身の安全を守る上で非常に重要です。ご家族や身近な人にも、糖尿病や低血糖について理解してもらうように努めましょう。「糖尿病緊急カード」などを携帯し、自分が糖尿病患者であること、低血糖時の対応方法などを記載しておくと、万が一の際に周囲の人が適切な対応を取りやすくなります。

メトホルミン服用で低血糖を予防するには

メトホルミンを安全に効果的に使用するためには、低血糖のリスクを最小限に抑えるための予防策を講じることが不可欠です。日々の生活の中で意識できる点と、医療者との連携が重要になります。

正しい服用方法とタイミング(食事との関連)

メトホルミンの服用方法やタイミングは、医師の指示通りに守ることが最も重要です。一般的に、メトホルミンは食事中または食直後の服用が推奨されます。

  • 食事と一緒に服用: 食事中に薬を服用することで、食後の血糖値上昇に合わせて薬が作用し、低血糖のリスクを減らすことができます。また、食事と一緒に服用することで、メトホルミンに比較的多い消化器症状(吐き気、下痢など)を軽減する効果も期待できます。
  • 食直後に服用: 食事を終えてすぐに服用する場合も、食事による糖の吸収が始まるタイミングに薬の作用が合うため、効果的です。
  • 欠食時の対応: もし食事を摂らない場合や、食事の量が極端に少ない場合は、その回のメトホルミンをどうするか、事前に医師や薬剤師に確認しておきましょう。自己判断で服用を中止したり、量を減らしたりせず、必ず指示を仰ぐようにしてください。 特に、インスリンやSU薬など他の血糖降下薬を併用している場合は、自己判断は非常に危険です。
  • 服用時間の厳守: 毎日ほぼ同じ時間に服用することで、薬の血中濃度が安定し、効果と安全性を保つことができます。

決められた用法・用量を守り、飲み忘れや飲み間違いに注意することが、低血糖予防の第一歩です。

食事、運動、飲酒に関する注意点

メトホルミンの効果は、食事、運動、飲酒といった生活習慣と密接に関連しています。これらの点に注意することで、低血糖のリスクを下げることができます。

  • 食事:
    • 規則正しい食事: 毎日ほぼ同じ時間に、朝・昼・夕とバランスの取れた食事を摂るように心がけましょう。食事を抜いたり、極端に食事量を減らしたりすることは、低血糖のリスクを高めるため避けましょう。特に朝食を抜く習慣がある方は注意が必要です。
    • 炭水化物の量: 食事ごとに摂取する炭水化物の量は、ある程度一定にするのが望ましいです。極端に炭水化物の量が少ない食事は、低血糖を招きやすいので注意が必要です。糖質制限を行う場合も、必ず医師や管理栄養士と相談しながら行いましょう。
  • 運動:
    • 運動のタイミング: 空腹時の激しい運動は避けましょう。食事をしてから1〜2時間後に運動するのが理想的です。
    • 運動前の補食: 長時間または激しい運動をする場合は、運動前に少量のおにぎりやパン、果物などの炭水化物を摂ることを検討してください。特にインスリンやSU薬を併用している場合は必須です。
    • 運動中の携帯: 運動中に低血糖症状を感じた場合に備え、ブドウ糖タブレットやジュースなどを携帯しておきましょう。
    • 運動後の注意: 運動後数時間から、場合によっては翌朝にかけて低血糖が起こる遅発性低血糖という現象もあります。運動量の多かった日などは、夜間や翌朝の低血糖に注意し、必要に応じて寝る前に軽食を摂るなどの対策を医師と相談してください。
  • 飲酒:
    • 空腹時の飲酒を避ける: 特に危険です。アルコールは肝臓の糖新生を抑制し、血糖値を下げやすくするため、必ず何かを食べながら、または食後に飲むようにしましょう。
    • 適量に留める: 過剰な飲酒は、低血糖だけでなく、メトホルミンの重篤な副作用である乳酸アシドーシスのリスクも高めます。飲む量については、必ず医師に相談し、適量を守りましょう。
    • 飲酒後の注意: 就寝前に飲酒した場合、夜間から翌朝にかけて低血糖が起こる可能性があります。寝る前に軽い炭水化物を摂るなどの対策が必要か、医師に確認しましょう。

定期的な血糖値の自己測定

医師から指示されている場合は、定期的な血糖値の自己測定(SMBG: Self-Monitoring of Blood Glucose)を行いましょう。血糖値を測定することで、自分の体の状態や薬の効果を把握することができます。

  • 測定のタイミング: 食前、食後、就寝前、運動の前後、低血糖症状を感じた時など、医師から指示されたタイミングで測定しましょう。測定データは、薬の効果や生活習慣との関連性を把握する上で非常に重要です。
  • 低血糖の早期発見: 症状が出る前に血糖値の低下を把握できれば、早期に対処し、重症化を防ぐことができます。無自覚性低血糖の予防にもつながります。
  • 傾向の把握: 定期的に測定することで、どのような時に血糖値が下がりやすいか、自分の体の傾向を知ることができます。特定の時間帯に低い傾向がある場合は、薬の量やタイミングの見直しを医師と相談できます。

測定結果は記録しておき、次回の診察時に医師に見せるようにしましょう。血糖コントロールの状態や、低血糖が起こりやすい状況などを把握する上で非常に有用です。血糖測定器の使い方が分からない場合は、医師や看護師、薬剤師に質問しましょう。

医師・薬剤師への相談の重要性

メトホルミンを安全に服用する上で、医師や薬剤師との密な連携は不可欠です。

  • 不安や疑問の解消: 薬の服用方法、低血糖の症状や対処法、食事や運動との関連など、不安な点や疑問があれば、遠慮なく医師や薬剤師に質問しましょう。「こんなことを聞いてもいいのかな?」と遠慮する必要はありません。
  • 体調の変化を伝える: 風邪をひいた、食欲がない、下痢をしている、嘔吐がある、いつもより疲れている、発熱があるなど、体調に変化があった場合は必ず伝えましょう。これらの体調不良時は「シックデイ」と呼ばれ、血糖値が不安定になりやすいため、薬の量を調整したり、一時的に中止したりする必要がある場合があります。必ず医師の指示を仰いでください。
  • 併用薬の報告: 他の病院で処方された薬や、市販薬、健康食品、サプリメントなどを服用する場合は、必ず医師や薬剤師に報告してください。飲み合わせによっては、メトホルミンの効果に影響を与えたり、副作用のリスク(特に乳酸アシドーシスや低血糖)を高めたりすることがあります。お薬手帳をしっかり活用しましょう。
  • 低血糖を起こした場合の報告: 低血糖を起こした場合は、その時の状況(いつ、何をしていて、どんな症状が出て、どのように対処したか、血糖値はどのくらいだったかなど)を詳しく医師に報告しましょう。今後の治療方針や薬の調整に役立ちます。もし記録があれば、それを見せるのも良いでしょう。
  • 腎機能・肝機能などの検査: 定期的な診察時には、腎機能や肝機能などの検査が行われます。これらの機能が低下していないか確認することは、メトホルミンを安全に使用するために非常に重要です。検査結果について不明な点があれば質問しましょう。
  • 妊娠の可能性や授乳について: 妊娠を希望する場合、妊娠中、授乳中である場合は、必ず医師に伝えてください。

自己判断で薬の量を変えたり、服用を中止したりすることは絶対に避け、必ず医師の指示に従ってください。 これが、メトホルミンを含むすべての糖尿病治療薬を安全に使用するための基本です。

メトグルコと低血糖の関係

「メトグルコ」という商品名でメトホルミンを服用されている方もいらっしゃるかと思います。「メトグルコはメトホルミンと違うの?」と疑問に思われるかもしれませんが、メトグルコはメトホルミン塩酸塩を主成分とするお薬の商品名です。

メトグルコもメトホルミン塩酸塩

メトグルコの有効成分は「メトホルミン塩酸塩」です。これは、海外で古くから使用されている「メトホルミン」という薬の成分と同じものです。日本国内では、メトグルコの他にも、ジェネリック医薬品を含め、様々なメーカーからメトホルミン塩酸塩を主成分とする糖尿病治療薬が製造販売されています。例えば、「グリコラン」「ジベト」「メトホルミン塩酸塩錠○○mg [××]」といった名称の薬も、有効成分はメトホルミン塩酸塩です。

したがって、メトグルコとメトホルミンは、有効成分という点では同じ薬であり、作用機序や期待される効果、そして低血糖を含む副作用のリスクも同様です。メトグルコを服用されている方も、本記事で解説しているメトホルミンによる低血糖のリスク、症状、対処法、予防法について理解しておくことが重要です。

商品名が異なるだけで、有効成分が同じであるということはよくあります。自分が服用している薬の有効成分名を知っておくと、他の情報源や海外の情報などを調べる際に役立ちます。不明な場合は、必ず医師や薬剤師に確認しましょう。

メトホルミン服用に関するその他の注意点

メトホルミンは低血糖のリスク以外にも、知っておくべき副作用や、服用してはいけない方・慎重に投与すべき方に関する注意点があります。これらを正しく理解しておくことも、安全な治療のために重要です。

低血糖以外の副作用について

メトホルミンは適切に使用されれば比較的安全性の高い薬とされていますが、いくつかの副作用が知られています。

乳酸アシドーシスとは

乳酸アシドーシスは、メトホルミンの最も重篤な副作用として知られています。非常にまれではありますが、発症すると命にかかわる可能性のある危険な状態です。体内に乳酸が異常に蓄積し、血液が酸性に傾く状態です。

原因

乳酸アシドーシスは、特に以下のような条件下でメトホルミンを服用した場合にリスクが著しく高まります。

  • 重度腎機能障害: メトホルミンが体外にうまく排泄されないため、体内に蓄積しやすくなります。腎機能がeGFR 30mL/min/1.73m²未満の場合は禁忌です。
  • 腎機能障害を伴う脱水症、脱水状態が懸念される状態: 発熱、下痢、嘔吐などがある場合。
  • 乳酸アシドーシスの既往がある方
  • 重度の肝機能障害
  • 重度の心機能障害(心不全など)、肺機能障害(呼吸不全など)など、低酸素状態に陥りやすい疾患
  • ショック、昏睡、前昏睡、ケトーシスを伴う糖尿病: インスリン治療が優先されます。
  • 重症感染症、手術前後、重篤な外傷: 体への負担が大きく、乳酸アシドーシスのリスクが高まります。
  • アルコール多飲: アルコールは肝臓の機能に影響を与え、乳酸の代謝を妨げる可能性があります。多量のアルコール摂取は乳酸アシドーシスの独立したリスク因子です。
  • 造影剤を使用する検査: 検査前にメトホルミンを一時的に中止する必要がある場合があります。ヨード造影剤を用いる検査では、造影剤投与前48時間以内および投与後48時間以内はメトホルミンを中止することが原則です。
  • 手術前後: 全身麻酔を伴う手術や、体への負担が大きい手術の前後は、乳酸アシドーシスのリスクが高まる可能性があります。手術の数日前からメトホルミンを中止し、術後も全身状態が安定するまで再開しないことが一般的です。
  • 重症感染症、外傷: 体が炎症を起こし、代謝が亢進している状態では、乳酸アシドーシスのリスクが高まります。

症状

乳酸アシドーシスの初期症状は、他の体調不良と区別がつきにくい場合がありますが、進行すると非常に危険な状態になります。

  • 吐き気、嘔吐
  • 激しい腹痛
  • 筋肉痛
  • 過呼吸(速く深い呼吸)、息苦しさ
  • 倦怠感、脱力感
  • 意識障害、昏睡

これらの症状が現れた場合は、すぐにメトホルミンの服用を中止し、直ちに医療機関を受診してください。 乳酸アシドーシスは早期発見・早期治療が非常に重要です。

消化器症状など

乳酸アシドーシスに比べ、より頻繁に起こりうる副作用としては、消化器症状が挙げられます。

  • 下痢
  • 吐き気、嘔吐
  • 腹痛
  • 食欲不振
  • 金属のような味覚異常

これらの消化器症状は、メトホルミンの服用開始初期に多く見られ、通常は数日~数週間で軽快することが多いです。これは、薬が消化管に作用することによる影響と考えられています。症状がひどい場合や長く続く場合は、医師に相談してください。多くの場合、薬の量を少量(例: 1日250mgなど)から開始し、患者さんの状態を見ながら徐々に増やしていく(漸増法)ことで、これらの症状を軽減することができます。どうしても症状が続く場合は、他の薬への変更が検討されることもあります。

その他のまれな副作用として、ビタミンB12の吸収障害による欠乏症(長期間の服用で起こる可能性)や、アレルギー症状(発疹、かゆみなど)などがあります。長期間メトホルミンを服用している方は、定期的にビタミンB12の値をチェックすることが推奨される場合があります。必要に応じて、ビタミンB12を補う治療(サプリメントや注射など)が行われます。気になる症状があれば、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

メトホルミンの禁忌・慎重投与

メトホルミンは、以下のような状態の患者さんには投与してはいけない(禁忌)とされています。これは、乳酸アシドーシスを含む重篤な副作用のリスクが著しく高まるためです。

禁忌(服用してはいけない方)

  • 重度腎機能障害: eGFRが30mL/min/1.73m²未満の場合など。
  • 腎機能障害を伴う脱水症、脱水状態が懸念される状態: 発熱、下痢、嘔吐などがある場合。
  • 乳酸アシドーシスの既往がある方
  • 重度の肝機能障害
  • 重度の心機能障害(心不全など)、肺機能障害(呼吸不全など)など、低酸素状態に陥りやすい疾患
  • ショック、昏睡、前昏睡、ケトーシスを伴う糖尿病: インスリン治療が優先されます。
  • 重症感染症、手術前後、重篤な外傷: 体への負担が大きく、乳酸アシドーシスのリスクが高まります。
  • アルコール中毒
  • 全身状態の悪い患者(飢餓状態、栄養不良状態、衰弱状態など)
  • メトホルミンに対して過敏症(アレルギー症状)の既往歴がある方
  • 妊婦または妊娠している可能性のある方
  • 授乳婦

また、以下のような状態の患者さんには、慎重に投与する必要があります。医師が患者さんの状態をよく評価し、投与の可否や量を判断します。

慎重投与(注意が必要な方)

  • 軽度~中等度腎機能障害: eGFR 30~60mL/min/1.73m²未満の場合など。用量調整が必要となることがあります。
  • 高齢者: 一般的に生理機能が低下しているため、副作用が出やすい傾向があります。特に腎機能や肝機能に注意が必要です。
  • 他の血糖降下薬やインスリンとの併用: 低血糖リスクが高まるため。
  • 利尿薬など、腎機能に影響を与える可能性のある薬剤を服用している場合

これらの情報は、患者さんの安全を守るために非常に重要です。ご自身の健康状態や既往歴、現在服用している薬について、正確に医師や薬剤師に伝えるようにしましょう。自己判断でメトホルミンを服用したり、他の人にあげたりすることは絶対にやめてください。

メトホルミン服用についてよくある質問

メトホルミン服用中の低血糖やその他の注意点に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. メトホルミンを飲み始めてから、なぜかだるいのですが、これは低血糖でしょうか?

だるさや倦怠感は低血糖の初期症状の一つである可能性があります。特に、服用開始初期であったり、食事量が少ない、運動したなどの低血糖を起こしやすい条件下であれば、低血糖を疑ってみる必要があります。まずは可能であれば血糖値を測定してみてください。もし低血糖の基準値(70mg/dL未満)であれば、速やかに糖質を摂取して対処してください。

ただし、だるさの原因は低血糖以外にも、糖尿病自体の症状(血糖値が高い状態が続いている場合)、メトホルミンの副作用(特に消化器症状に伴う体調不良)、他の病気、疲労など様々な可能性が考えられます。もし血糖値が正常範囲内であるにも関わらずだるさが続く場合は、自己判断せず、必ず医師に相談しましょう。症状を詳しく伝えて、原因を特定し、適切な対応を受けることが大切です。特に消化器症状(下痢や吐き気)に伴うだるさは、メトホルミン開始初期によく見られるものです。

Q2. 運動する日は、メトホルミンを飲む量を減らした方がいいですか?

自己判断でメトホルミンの服用量を減らしたり、中止したりすることは基本的に避けてください。運動は血糖値を下げる効果があるため、特に他の血糖降下薬を併用している場合は、運動の内容や時間帯によっては低血糖のリスクが高まる可能性があります。

運動の内容や、運動前後の食事、メトホルミン以外の併用薬の種類などを考慮して、医師が必要と判断した場合にのみ、薬の量やタイミングの調整、あるいは運動前の補食などが指示されます。運動習慣がある方や、これから運動を始める予定のある方は、運動が血糖値に与える影響や、それに応じた薬の調整について、必ず事前に医師や薬剤師に相談し、具体的な指示を受けてください。特に激しい運動や普段しないような運動をする際は、注意が必要です。

Q3. メトホルミンを飲んでいても、お酒は少量なら飲んでも大丈夫ですか?

メトホルミン服用中の飲酒は、低血糖や乳酸アシドーシスのリスクを高める可能性があるため、基本的に推奨されません。しかし、少量であれば問題ない場合もありますが、これは個々の患者さんの健康状態、腎機能、肝機能、併用薬の種類、普段の飲酒量などによって大きく異なります。

最も危険なのは、空腹時の飲酒と大量の飲酒です。 アルコールは肝臓の糖新生を抑制し、血糖値を下げやすくするため、特に空腹時や、メトホルミンの効果がピークになる時間帯の飲酒は低血糖を招く危険性が高まります。また、アルコールの分解過程で乳酸が生成されるため、大量の飲酒は乳酸アシドーシスのリスクを著しく上昇させます。

飲酒を希望される場合は、必ず事前に医師に相談し、飲んで良い量やタイミング、注意点などの具体的なアドバイスを受けるようにしてください。自己判断での飲酒は避けましょう。医師から許可が出た場合でも、深酒は避け、必ず食事をしながら飲むようにしましょう。

Q4. 低血糖になった場合、ジュースとブドウ糖タブレットではどちらが良いですか?

低血糖時の糖質補給としては、ブドウ糖タブレットが最も推奨されます。その理由は、ブドウ糖が体内ですぐに吸収されて血糖値を迅速に上昇させるからです。ジュース(特に清涼飲料水や100%ジュース)もブドウ糖や砂糖(体内でブドウ糖に分解される)を含んでおり、血糖値を上げる効果がありますが、製品によっては果糖が多く含まれていたり、食物繊維や脂肪が含まれていたりして、血糖値の上昇がブドウ糖単独よりも穏やかになる場合があります。

また、ブドウ糖タブレットは持ち運びやすく、量を正確に摂取しやすいという利点もあります。いざという時のために、常にブドウ糖タブレットを携帯しておくことをお勧めします。もしブドウ糖タブレットがない場合は、砂糖を溶かした水や、ブドウ糖を多く含む清涼飲料水(成分表示を確認)で代用してください。繰り返しになりますが、チョコレートなど脂肪を多く含むものは吸収が遅いため、低血糖対処には向きません。ジュースを選ぶ際は、砂糖やブドウ糖がしっかり含まれているか、成分表示を確認しましょう。

Q5. メトホルミンを長期間服用することで、何か体に影響はありますか?

メトホルミンは、適切に使用されれば、血糖コントロールの改善だけでなく、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクを低下させる可能性も示唆されており、多くの患者さんにとってメリットの大きい薬です。PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)など、糖尿病以外の疾患にも使用されることがあります。

一方で、長期間の服用により、ビタミンB12の吸収障害が起こる可能性が報告されています。ビタミンB12は神経機能や血液を作る上で重要な栄養素であり、不足すると貧血(悪性貧血)や手足のしびれ、神経障害といった症状を引き起こす可能性があります。このため、メトホルミンを長期間服用している方には、定期的にビタミンB12の検査が行われることがあります。必要に応じて、ビタミンB12を補う治療(サプリメントや注射など)が行われます。

気になる症状がある場合や、長期服用について不安な点がある場合は、遠慮なく医師に相談しましょう。定期的な診察や検査をしっかり受けることが、安全に長期間服用するために大切です。

【まとめ】メトホルミンと低血糖について正しく理解し、安全な治療を

メトホルミンは、インスリン抵抗性を改善し、肝臓からの糖放出を抑えるなど、複数の作用機序によって血糖値を下げる効果的な糖尿病治療薬です。他の血糖降下薬と比較すると、単独での低血糖リスクは低いとされていますが、全くリスクがないわけではありません。

特に、食事量が少ない、運動量が多い、アルコールを過剰に摂取した、腎機能が低下しているといった条件下では、低血糖を起こしやすくなるため注意が必要です。低血糖の初期症状(空腹感、発汗、動悸など)や進行した症状(集中力低下、ふらつき、酩酊感など)を知っておき、これらのサインが現れたら、速やかにブドウ糖や糖質を含む食品を摂取して対処することが重要です。意識を失うなどの重症低血糖の場合は、直ちに救急車を要請する必要があります。低血糖時の「15-15ルール」(ブドウ糖10g摂取、15分待って再確認、必要なら再摂取)を覚えておくと役立ちます。

また、メトホルミンを安全に使用するためには、正しい服用方法を守り、食事や運動、飲酒に関する注意点を守ることも大切です。特に、規則正しい食事と、空腹時の激しい運動や飲酒を避けることが重要です。定期的な血糖測定や、体調の変化、併用薬、低血糖を起こした際の状況などを正確に医師や薬剤師に伝えることも非常に重要です。乳酸アシドーシスのような重篤な副作用のリスクについても理解し、不安な点や気になる症状があれば、必ず専門家に相談しましょう。

メトホルミンを含む糖尿病治療薬は、適切に使用すれば糖尿病による合併症を予防し、健康寿命を延ばすために大きな効果を発揮します。低血糖や副作用を過度に恐れるのではなく、それらを正しく理解し、医療従事者との良好なコミュニケーションを保ちながら治療を進めていくことが、最も安全で効果的な方法と言えるでしょう。

免責事項: 本記事の情報は、メトホルミン服用中の低血糖に関する一般的な情報提供を目的としており、医師による診断や治療の代替となるものではありません。個々の症状や状況については、必ず医師や薬剤師に相談し、その指示に従ってください。自己判断での薬の変更や中止は危険です。

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