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エスゾピクロンとデエビゴは併用可能?知っておくべき注意点

不眠に悩む多くの方が、十分な休息を得るために睡眠薬の服用を検討したり、既に服用しているかもしれません。
不眠症治療薬には様々な種類がありますが、中には複数の薬剤を併用して使用するケースも存在します。
エスゾピクロン(製品名:ルネスタなど)とデエビゴは、どちらも不眠症の治療に用いられる薬ですが、それぞれ異なるメカニズムで作用します。
これらの薬を併用することは可能なのか、安全性はどうか、どのような場合に併用が検討されるのかなど、疑問や不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、エスゾピクロンとデエビゴのそれぞれの特徴を踏まえながら、併用に関する情報、起こりうる効果やリスク、そして安全な使用のために不可欠な医師の判断について詳しく解説します。
睡眠に関する悩みや服用中の薬について、正確な情報を得ることは非常に重要です。
自己判断での併用や中止は避け、必ず医師や薬剤師にご相談ください。

目次

エスゾピクロンとデエビゴは併用できる?医師の判断が不可欠

エスゾピクロンとデエビゴは、不眠症の治療に用いられる全く異なる作用機序を持つ薬剤です。
結論から述べると、これらの薬を併用することは、医師が必要と判断した場合に限って慎重に行われることがあります
決して自己判断で併用したり、一方の薬を服用中に自己判断でもう一方の薬を追加服用したりしてはいけません。

睡眠薬の併用は、単剤での効果が不十分な場合や、患者さんの不眠のタイプ(寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうなど)が複雑である場合に検討されることがあります。
エスゾピクロンとデエビゴは作用する脳の部位やメカニズムが異なるため、理論上、それぞれの薬だけではカバーしきれない不眠の側面を補い合う可能性が考えられます。
しかし、異なる作用機序の薬を組み合わせることで、単剤使用時には見られないような副作用の発現リスクが高まる可能性も否定できません。

そのため、エスゾピクロンとデエビゴの併用が適切かどうかは、患者さんの個々の不眠の症状、重症度、これまでの治療経過、年齢、全身状態、合併している他の疾患、現在服用している他の薬剤などを総合的に評価した上で、医師が慎重に判断する必要があります。
医師は、併用による期待される効果と、起こりうる副作用や薬物相互作用のリスクを天秤にかけ、患者さんにとって最も安全かつ効果的な治療法を選択します。

併用時の注意点とリスク

エスゾピクロンとデエビゴを併用する場合、患者さん自身が十分に理解し、注意すべき点がいくつかあります。
最も重要なのは、必ず医師の指示された用量・用法を厳守することです。
自己判断で薬の量を増やしたり、飲む回数を増やしたりすることは絶対に避けてください。
これにより、過剰な鎮静作用や重篤な副作用を引き起こすリスクが高まります。

また、併用を開始した後や、用量が変更された後は、体調の変化に特に注意が必要です。
具体的には、以前にも増して日中の眠気が強くなった、ふらつきやめまいを感じるようになった、物忘れがひどくなった、気分が落ち込む、いつもと違う夢を見るようになったなど、気になる症状が現れた場合は、速やかに処方医や薬剤師に相談してください。
これらの症状は、薬の副作用の可能性があり、放置すると日常生活に支障をきたしたり、転倒などの事故につながったりする危険性があります。

さらに、エスゾピクロンとデエビゴ以外に、市販薬やサプリメント、健康食品、あるいは他の医療機関から処方された薬を服用する場合は、必ず事前に医師や薬剤師に伝えてください。
これらの情報を提供することで、薬物相互作用のリスクを評価し、安全な併用が可能かどうかの判断に役立ちます。
特に、中枢神経抑制作用を持つ他の薬(抗不安薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、飲酒など)との併用は、過剰な鎮静を引き起こすリスクが高まるため、注意が必要です。

なぜ医師が併用を判断するのか?

医師がエスゾピクロンとデエビゴのような異なる系統の睡眠薬の併用を判断するのは、単剤での治療では十分な効果が得られない、あるいは患者さんの不眠が複数の要因によって引き起こされていると考えられる場合が一般的です。
不眠症は、単に入眠困難だけでなく、夜中の覚醒、早朝覚醒、熟眠感のなさなど、様々な形で現れます。
エスゾピクロンは主にGABA系に作用して脳全体の活動を抑制し、比較的速やかな入眠を促す効果が期待できますが、効果の持続時間には限りがあります。
一方、デエビゴはオレキシン系に作用し、覚醒を維持するシステムを抑制することで、自然な眠りに近い状態を促し、睡眠維持に寄与すると考えられています。

例えば、患者さんが「寝つきも悪いし、夜中に何度も目が覚めてしまう」という混合型の不眠を訴えている場合、エスゾピクロン単剤では入眠は改善されても、夜中の覚醒には効果が不十分かもしれません。
逆に、デエビゴ単剤では夜中の覚醒は減っても、寝つきの悪さまでは改善されないというケースも考えられます。
このような状況で、医師はそれぞれの薬が持つ異なる作用を利用し、エスゾピクロンで入眠をスムーズにしつつ、デエビゴで睡眠を維持するというアプローチを検討することがあります。

しかし、これはあくまで理論上の話であり、実際の臨床での効果や安全性は患者さん一人ひとりの状態によって大きく異なります。
医師は、これまでの治療薬への反応、副作用の経験、さらには患者さんの生活リズムや仕事の内容なども考慮して、総合的な治療計画を立てます。

併用は、これらの複雑な要因を踏まえた上で、単剤治療の限界を補うための選択肢の一つとして、極めて慎重に検討される専門的な判断なのです。
医師は、併用を開始した後も患者さんの経過を注意深く観察し、効果と副作用のバランスを見ながら、薬の種類や量を細かく調整していきます。

エスゾピクロン(ルネスタ)とはどんな薬?

エスゾピクロンは、不眠症の治療薬として広く使用されている薬剤です。
日本では主に「ルネスタ」という製品名で処方されています。
ベンゾジアゼピン系薬剤と構造は異なりますが、同様に脳内のGABA(γ-アミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを強めることで、鎮静、催眠、抗不安、筋弛緩作用などを発揮します。
特にGABA_A受容体に作用することで、脳の活動を抑制し、眠気を誘ったり、眠りを維持したりする効果が期待されます。

エスゾピクロンは、いわゆる「非ベンゾジアゼピン系」に分類される薬剤の一つです。
これは、従来のベンゾジアゼピン系薬剤に比べて、依存性や離脱症状のリスクが比較的低いとされているためです。
ただし、全くリスクがないわけではなく、漫然と長期にわたって使用したり、自己判断で急に中止したりすると、これらの問題が発生する可能性はあります。

エスゾピクロンは、主に以下のような不眠症状に対して処方されます。

  • 入眠困難: 寝つきが悪く、眠りにつくまでに時間がかかるタイプ。
  • 中途覚醒: 一度眠りについても、夜中に何度も目が覚めてしまうタイプ。
  • 早朝覚醒: 希望する時間よりかなり早く目が覚めてしまい、その後眠れないタイプ。

比較的幅広い不眠タイプに対して効果が期待できる薬剤ですが、特に寝つきの悪さに対して効果を発揮しやすいと考えられています。

作用機序と効果時間

エスゾピクロンは、脳内のGABA_A受容体に結合し、GABAの抑制作用を増強することで効果を発揮します。
GABAは、脳の興奮を抑えるブレーキのような働きをする神経伝達物質です。
エスゾピクロンがGABA_A受容体に作用すると、GABAの働きが効率化され、神経細胞の活動が抑制されます。
これにより、過剰な脳の興奮が鎮静され、眠りやすい状態が作られます。

エスゾピクロンは、服用後比較的速やかに効果が現れることが特徴です。
血中濃度が最高になるまでの時間(Tmax)は、通常1時間程度とされています。
効果の持続時間については、半減期が約6時間と比較的中間作用型の睡眠薬に分類されます。
このため、服用後約5~7時間程度は睡眠を維持する効果が期待できますが、効果の現れ方や持続時間には個人差があります。
例えば、代謝酵素の働きが活発な人や、特定の薬剤を併用している人では、効果の持続時間が短くなる可能性もあれば、逆に代謝が遅い人では効果が長く続き、翌日に眠気や持ち越し効果が出やすくなる可能性もあります。

効果の持続時間から考えると、エスゾピクロンは寝つきを改善するだけでなく、夜間の途中覚醒にもある程度の効果が期待できる薬と言えます。
しかし、長時間にわたる睡眠維持が必要な場合や、早朝覚醒が主な症状である場合には、エスゾピクロン単剤では効果が不十分となる可能性も考えられます。

主な副作用

エスゾピクロンの服用によって起こりうる主な副作用には、以下のようなものがあります。
副作用の発現頻度や程度は個人差があります。

  • 味覚異常(苦味): 服用後に口の中に苦味を感じることが比較的よくあります。
    これは薬の成分が唾液中に分泌されることによって起こると考えられており、エスゾピクロンに特徴的な副作用の一つです。
  • 眠気: 薬の効果によるものですが、翌日まで眠気が持ち越されることがあります。
    特に高用量を服用した場合や、効果の持続時間が長くなる体質の方で起こりやすい傾向があります。
  • めまい、ふらつき: 体のバランスを保つ機能に影響を与え、めまいやふらつきを感じることがあります。
    転倒のリスクを高める可能性があるため、特に高齢者では注意が必要です。
  • 頭痛
  • 消化器症状: 吐き気、腹痛、食欲不振など。
  • 倦怠感: 体のだるさや疲労感を感じることがあります。
  • 前向性健忘: 薬を服用した後、眠りにつくまでの間の出来事を覚えていないことがあります。
    薬が効き始めているにも関わらず無理に活動しようとした場合に起こりやすいとされています。
  • 悪夢、奇妙な夢
  • 注意集中力・反射運動能力の低下: 翌日にこれらの能力が低下する可能性があり、車の運転や危険な機械の操作は控える必要があります。

これらの副作用の多くは一過性で軽度なことが多いですが、症状が続く場合や日常生活に支障をきたすほど重い場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
まれに、呼吸抑制、肝機能障害、精神症状(興奮、錯乱など)といった重篤な副作用が起こる可能性も報告されていますが、非常に稀です。

デエビゴとはどんな薬?

デエビゴは、2020年に日本で発売された比較的新しい不眠症治療薬です。
有効成分はレンボレキサントといい、これまでのベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系とは全く異なる作用機序を持つ「オレキシン受容体拮抗薬」に分類されます。

覚醒と睡眠は、脳内の様々な神経伝達物質によってバランスが取られています。
オレキシンという神経伝達物質は、覚醒を維持するシステムにおいて重要な役割を果たしています。
不眠症では、このオレキシン系の活動が過剰になっていることが一因と考えられています。
デエビゴは、このオレキシンがその受容体(OX1RおよびOX2R)に結合するのをブロックすることで、オレキシンによる覚醒維持の働きを抑制します。
これにより、脳が自然な眠りに入りやすい状態を作り出す効果が期待されます。

デエビゴは、特に以下のような不眠症状に対して効果が期待されます。

  • 入眠困難: 寝つきの悪さ。
  • 睡眠維持困難: 夜間の途中覚醒や早朝覚醒。

オレキシン系の抑制は、GABA系を介して脳全体を抑制する従来の睡眠薬とは異なり、生理的な睡眠メカニズムに作用するため、より自然な眠りに近いと言われることもあります。
しかし、効果や感じ方には個人差があり、全ての患者さんに同じように作用するわけではありません。

作用機序と効果時間

デエビゴ(レンボレキサント)は、脳内で覚醒状態の維持に関わるオレキシン神経系の働きを抑制します。
オレキシンは、日中の活動を維持し、夜間に覚醒状態を保つ働きを持つ神経伝達物質です。
デエビゴは、このオレキシンが結合する受容体であるオレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)の両方をブロックする「デュアルオレキシン受容体拮抗薬」です。

オレキシン受容体を阻害することで、オレキシン神経系からの「起きろ」という信号が弱まり、脳は眠りやすい状態に移行します。
この作用機序は、GABA系を増強して脳活動全体を抑制するエスゾピクロンとは根本的に異なります。
例えるなら、GABA系は「脳全体のボリュームを下げる」のに対し、オレキシン系拮抗薬は「覚醒を促す特定のスイッチを切る」ようなイメージです。

デエビゴの効果発現には、服用後ある程度の時間が必要です。
血中濃度が最高になるまでの時間(Tmax)は、約0.5~2時間と報告されています。
効果の持続時間については、半減期が約17時間と比較的長時間作用型の睡眠薬に分類されます。
この長い半減期のため、夜間の睡眠維持や早朝覚醒の改善に効果が期待できる一方で、翌日に眠気が持ち越される可能性もあります。
特に、夜遅くに服用した場合や、翌日の活動開始時刻が早い場合は注意が必要です。

効果の持続時間が長いことから、デエビゴは特に中途覚醒や早朝覚醒といった睡眠維持の困難さを主な症状とする不眠症に対して、より適していると考えられる場合があります。
ただし、入眠困難に対しても一定の効果が確認されています。

主な副作用

デエビゴの服用によって起こりうる主な副作用には、以下のようなものがあります。
エスゾピクロンとは異なる作用機序であるため、副作用の種類や特徴も異なります。

  • 傾眠(眠気): 服用後に眠気を感じる、あるいは翌日まで眠気が持ち越されることがあります。
    これは薬の作用によるものですが、過剰な眠気は日常生活に支障をきたす可能性があるため注意が必要です。
  • 頭痛: 服用後に頭痛を感じることがあります。
  • 疲労: だるさや倦怠感を感じることがあります。
  • 悪夢: 通常よりも鮮明な夢や不快な夢を見ることがあります。
    オレキシン神経系はレム睡眠にも関与しているため、悪夢を見やすくなる可能性が指摘されています。
  • 睡眠麻痺: 入眠時や覚醒時に体が動かせなくなる症状(いわゆる金縛り)が起こることがあります。
  • カタプレキシー(脱力発作様症状): 強い感情の刺激(笑い、喜び、怒りなど)によって、突然体の力が抜けてしまう症状が起こることがあります。
    これはオレキシン神経系の機能障害と関連が深い症状であり、デエビゴの作用機序から起こりうる可能性が示唆されています。
  • めまい、ふらつき
  • 体重増加
  • 食欲増加

これらの副作用は、服用量や体質によって発現頻度や程度が異なります。
特に眠気、めまい、ふらつきは、翌日の車の運転や危険な作業に影響を及ぼす可能性があるため、十分に注意が必要です。
気になる症状が現れた場合は、自己判断せずに必ず医師や薬剤師に相談してください。
重篤な副作用は稀ですが、呼吸抑制などが報告されています。

エスゾピクロンとデエビゴの併用で期待される効果

エスゾピクロンとデエビゴは、それぞれ異なるメカニズムで不眠を改善しようとする薬剤です。
エスゾピクロンはGABA_A受容体を介して脳全体の興奮を抑え、速やかな入眠を促しやすい性質を持ちます。
一方、デエビゴはオレキシン受容体をブロックして覚醒維持システムを抑制し、自然な眠りを促し、特に睡眠維持に寄与しやすい性質を持ちます。

単剤での治療が十分な効果をもたらさない場合や、患者さんの不眠症状が複雑で、入眠困難と中途覚醒・早朝覚醒の両方が重度であるようなケースでは、これらの異なる作用機序を持つ薬を併用することで、それぞれの薬単独では得られなかった効果が期待できる可能性があります。

具体的には、以下のような効果が期待される場合があります。

  • 入眠困難と睡眠維持困難の両方の改善: エスゾピクロンでスムーズな入眠を促し、デエビゴで夜間の覚醒回数を減らし、睡眠時間を延長することで、全体的な睡眠の質と量を改善する。
  • 単剤で効果不十分な不眠の改善: いずれかの薬を単剤で、あるいは他の睡眠薬で十分な効果が得られなかった場合に、作用機序の異なるエスゾピクロンとデエビゴを組み合わせることで、難治性の不眠に対する効果が期待できる。
  • 個々の患者さんの不眠パターンへのよりきめ細かい対応: 患者さんの不眠が持つ複数の側面(例:特定の時間帯に目が覚めやすい、寝つきは良いが朝早く起きてしまうなど)に対して、それぞれの薬の特徴を生かして対応する。

例えば、エスゾピクロンを服用しても寝つきは少し良くなったものの、夜中に何度も目が覚めてしまい、合計の睡眠時間が短いという患者さんがいるとします。
このような場合、医師はエスゾピクロンに加えてデエビゴを少量併用することで、夜中の覚醒を減らし、睡眠を維持する効果を高めることを検討するかもしれません。
あるいは、デエビゴを服用しているものの、なかなか寝付けないという患者さんに対して、エスゾピクロンを少量追加することで、入眠までの時間を短縮することを検討する可能性も考えられます。

ただし、これらの効果は必ず得られるものではなく、患者さんの病状、体質、他の服薬状況などによって大きく異なります。
併用は、あくまでも単剤治療の限界を補うための選択肢であり、医師が期待されるメリットと潜在的なリスクを慎重に比較検討した上で行われるべきものです。
安易な併用は、後述するような副作用やリスクを高める可能性が高いため、決して自己判断で行ってはいけません。

併用で起こりうる副作用・リスク

エスゾピクロンとデエビゴを併用する場合、単剤で服用する場合に比べて副作用の発現リスクが高まったり、副作用の程度が強くなったりする可能性があります。
特に注意が必要なのは、両薬剤が中枢神経系に作用することによって生じる影響です。

中枢神経抑制作用の増強に注意

エスゾピクロンはGABA_A受容体を介して脳の活動を抑制する作用があります。
一方、デエビゴはオレキシン系を抑制することで眠気を誘います。
作用機序は異なりますが、どちらも結果として中枢神経系の機能を抑制する方向に働きます。
そのため、これらの薬を併用すると、中枢神経抑制作用が相加的あるいは相乗的に増強される可能性があります。

この中枢神経抑制作用の増強は、以下のような様々なリスクにつながる可能性があります。

  • 過度の鎮静: 薬の効果が強すぎて、夜間の睡眠中だけでなく、日中も強い眠気を感じてしまうことがあります。
  • 認知機能の低下: 思考力の低下、集中力の散漫、記憶力の低下(特に前向性健忘のリスク増加)などが起こる可能性があります。
  • 精神運動機能の低下: 判断力や反応速度が遅くなり、車の運転や精密な機械の操作などが危険になる可能性があります。
  • ふらつきや転倒のリスク増加: 特に高齢者では、ふらつきが強くなり、転倒して骨折などの重傷を負うリスクが高まります。
  • 呼吸抑制: ごく稀ですが、特に呼吸器系の疾患(睡眠時無呼吸症候群や慢性閉塞性肺疾患など)がある患者さんでは、呼吸が抑制されるリスクが高まる可能性があります。

これらのリスクは、併用する薬の用量、患者さんの年齢、全身状態、肝機能・腎機能の状態、および他の薬剤との相互作用によっても影響を受けます。
例えば、肝臓や腎臓の機能が低下している患者さんでは、薬の代謝や排泄が遅くなり、体内に薬が蓄積しやすくなるため、副作用が強く現れるリスクが高まります。

眠気、ふらつき、注意力低下など

エスゾピクロンとデエビゴの併用によって特によく見られる、あるいは悪化する可能性のある副作用として、以下の症状が挙げられます。

  • 強い日中の眠気: 夜間の睡眠は改善されたとしても、翌朝になっても眠気が残ったり、日中の活動中に強い眠気を感じたりすることがあります。
    これにより、仕事や学業のパフォーマンスが低下したり、日常生活に支障をきたしたりする可能性があります。
  • ふらつき、めまい: バランス感覚が損なわれ、立ち上がるときや歩行時などにふらつきを感じやすくなります。
    これは転倒のリスクに直結するため、特に注意が必要です。
  • 注意力・集中力の低下: 物事に集中できなくなったり、注意が散漫になったりすることがあります。
    これにより、作業効率が落ちるだけでなく、思わぬ事故につながる可能性もあります。
  • 判断力の低下: 状況判断が鈍くなり、適切な行動が取れなくなる可能性があります。
  • 記憶障害: 特に、薬を服用してから眠りにつくまでの間の出来事に関する記憶が曖昧になったり、全く思い出せなくなったりする前向性健忘のリスクが増加する可能性があります。
  • 倦怠感: 体がだるく、疲れやすいと感じることがあります。

これらの副作用は、薬の効果が現れているサインでもありますが、同時に日常生活におけるリスクを高める兆候でもあります。
併用を開始したり、用量が変更されたりした後にこれらの症状が強く現れた場合は、速やかに医師に連絡し、指示を仰ぐことが不可欠です。
自己判断で薬を減らしたり中止したりすると、不眠症状が悪化したり、離脱症状が生じたりするリスクがあるため、絶対に避けてください。

また、アルコールはエスゾピクロンもデエビゴも中枢神経抑制作用を増強させる可能性があるため、併用中の飲酒は極めて危険です。
薬の効果が過剰に現れ、意識レベルの低下、呼吸抑制、深刻な転倒事故などにつながる可能性があるため、併用中は飲酒を控えるようにしましょう。

エスゾピクロンとデエビゴの使い分け・切り替えのポイント

エスゾピクロンとデエビゴは、同じ不眠症治療薬でも作用機序や効果の持続時間が異なるため、患者さんの不眠のタイプや状態に応じて使い分けられたり、必要に応じて一方から他方へ切り替えられたりすることがあります。

作用機序と不眠タイプの違い

使い分けの最も基本的な考え方は、それぞれの薬の作用機序がどの不眠タイプに適しているかということです。

  • エスゾピクロン: GABA_A受容体を介して脳全体の興奮を抑えるため、入眠困難に対して比較的速やかな効果が期待できます。
    また、ある程度の睡眠維持効果もありますが、効果時間は中間的です。
  • デエビゴ: オレキシン受容体をブロックして覚醒維持システムを抑制するため、生理的な眠りを促し、特に中途覚醒や早朝覚醒といった睡眠維持の困難さに対して効果が期待できます。
    入眠困難にも効果はありますが、エスゾピクロンほど速効性がないと感じる人もいます。

したがって、医師は患者さんの訴える不眠症状を詳しく聞き取り、どのタイプの不眠が最も顕著であるかを評価した上で、どちらの薬を選択するかを判断します。
例えば、「寝つきがとにかく悪くて困っている」という患者さんにはエスゾピクロンが第一選択肢となるかもしれませんし、「寝つきは良いけれど、夜中や朝方に必ず目が覚めてしまう」という患者さんにはデエビゴが適していると判断されるかもしれません。

もちろん、不眠症は単一のタイプではなく、複数の不眠症状が組み合わさっていることが多くあります(混合型不眠)。
このような場合に、単剤では効果不十分であれば、作用機序の異なるエスゾピクロンとデエビゴの併用が検討されることがあります。

効果時間の違い

薬の効果の持続時間も、使い分けや切り替えの重要なポイントとなります。

  • エスゾピクロン: 半減期が約6時間と比較的短いため、翌日への持ち越し効果(眠気など)が比較的少ない傾向があります。
    しかし、長時間睡眠が必要な場合や、早朝覚醒が重い場合は、夜間の後半に効果が弱まってしまう可能性があります。
  • デエビゴ: 半減期が約17時間と長いため、夜間の睡眠全体にわたって効果が持続し、特に睡眠維持の改善に有効です。
    しかし、その分、翌日の朝や日中に眠気が持ち越されるリスクがエスゾピクロンよりも高い傾向があります。

医師は、患者さんのライフスタイル、仕事や学業の状況、翌日の活動内容などを考慮して、適切な効果時間の薬を選択します。
例えば、朝早くから活動する必要がある人には、効果時間が比較的短いエスゾピクロンの方が適しているかもしれません。
一方、夜間の睡眠をしっかりと維持することが最優先である人には、デエビゴの方が適していると判断されることもあります。

ある薬で治療を開始したものの、効果が不十分であったり、副作用が強く現れたりした場合には、別の作用機序を持つデエビゴやエスゾピクロンへの切り替えが検討されます。
この際も、患者さんの不眠タイプ、これまでの治療への反応、副作用の経験、そして新しい薬への期待される効果とリスクを総合的に評価した上で、慎重に判断が行われます。
切り替えのタイミングや方法についても、医師の指示に厳密に従うことが重要です。
自己判断での切り替えや、一方の薬を急に中止することは、リバウンド不眠や離脱症状を引き起こす可能性があるため危険です。

併用に関するよくある質問

デエビゴは他の睡眠薬と併用できますか?

デエビゴは、他のオレキシン受容体拮抗薬(例:ベルソムラ、オクトラ)との併用は原則として禁忌とされています。
これは、同じ作用機序の薬を複数使用することで、効果が過剰になったり、副作用のリスクが著しく高まったりするためです。

しかし、作用機序の異なる他の系統の睡眠薬との併用については、医師が必要と判断した場合に限り、慎重に行われることがあります。
例えば、以下のような薬剤との併用が検討される場合があります。

  • 非ベンゾジアゼピン系薬剤(エスゾピクロン、ゾルピデム、ゾピクロンなど): 前述のように、デエビゴとエスゾピクロンは併用が検討されることがあります。
    ゾルピデム(マイスリー)やゾピクロン(アモバン)なども同様にGABA系に作用する非ベンゾジアゼピン系ですが、これらとデエビゴの併用も、患者さんの状態に応じて医師の判断で慎重に行われる可能性があります。
    ただし、中枢神経抑制作用の増強には十分な注意が必要です。
  • メラトニン受容体作動薬(ロゼレムなど): 脳内のメラトニンというホルモンの働きを模倣して概日リズムを調整する薬です。
    デエビゴやエスゾピクロンとは全く異なる作用機序であるため、併用によって相補的な効果が期待できる可能性があり、医師の判断で併用されることがあります。
  • 抗うつ薬や抗精神病薬の少量(トラゾドン、クエチアピンなど): 不眠の背景にうつ病や不安障害などがある場合に、これらの薬剤が本来の疾患治療薬として、あるいは少量で催眠作用を利用する目的で処方されることがあります。
    デエビゴやエスゾピクロンとの併用は、医師が患者さんの精神状態や不眠の性質を考慮して判断します。
    特にトラゾドン(レスリン、デジレル)は少量で催眠効果が得られることがあり、他の睡眠薬との併用が検討されるケースがあります。

重要なのは、これらの併用は全て医師の専門的な判断に基づいて行われるということです。
自己判断での併用は、予期せぬ薬物相互作用や重篤な副作用を引き起こす可能性があるため、絶対に避けてください。
現在服用中の薬がある場合は、市販薬やサプリメントも含めて、必ず医師に正確に伝えてください。

エスゾピクロンはどのくらい寝れる薬ですか?

エスゾピクロン(ルネスタ)は、服用後比較的速やかに効果が現れ、一般的には5〜7時間程度の睡眠を維持する効果が期待できる薬です。
これは、薬の血中濃度がピークに達するまでの時間や、薬が体から代謝・排泄される速さ(半減期)に基づいた一般的な目安です。

具体的には、服用後1時間程度で血中濃度が最高になり、眠気を強く感じやすくなります。
その後、薬の濃度は徐々に低下していきますが、約6時間の半減期を持つため、服用から5〜7時間程度の睡眠をサポートする効果が持続すると考えられます。

ただし、これはあくまで平均的な値であり、効果の現れ方や持続時間には個人差があります。

  • 体質: 薬の代謝酵素の働きは個人によって異なります。
    代謝が速い人では効果時間が短く感じられるかもしれませんし、代謝が遅い人では効果が長く続き、翌日まで眠気が持ち越される可能性があります。
  • 服用量: 服用量が多いほど効果は強く現れやすく、持続時間も長くなる傾向があります。
    ただし、効果が増強されるとともに副作用のリスクも高まります。
  • 食事の影響: 食事と一緒に服用すると、薬の吸収が遅くなり、効果の発現が遅れたり、効果のピークが低くなったりする可能性があります。
    一般的には空腹時の服用が推奨されます。
  • 他の薬剤との相互作用: 薬の代謝に関わる酵素の働きを阻害または促進する他の薬剤を併用している場合、エスゾピクロンの血中濃度が変動し、効果時間や副作用に影響が出ることがあります。

エスゾピクロンは、主に寝つきを改善する目的で使用されますが、中途覚醒や早朝覚醒といった睡眠維持の困難さに対しても一定の効果が期待できます。
しかし、長時間睡眠が必要な方や、重度の早朝覚醒に悩んでいる方では、効果が不十分と感じる場合もあります。
ご自身の体感する効果について、医師や薬剤師とよく相談することが大切です。

ルネスタとマイスリーの併用は?

ルネスタ(エスゾピクロン)とマイスリー(ゾルピデム)は、どちらも不眠症の治療に用いられる非ベンゾジアゼピン系GABA_A受容体作動薬です。
両薬剤は構造こそ異なりますが、脳内のGABA_A受容体に作用して脳の活動を抑制し、催眠効果を発揮するという作用機序が非常に似ています。

作用機序が類似しているため、通常、ルネスタとマイスリーは併用されません
同じような働きを持つ薬を同時に服用しても、期待される効果が大きく増強されるわけではなく、むしろ過剰な中枢神経抑制作用による副作用(強い眠気、ふらつき、転倒、認知機能低下など)のリスクが著しく高まる可能性が高いからです。

例えば、ルネスタで効果が不十分だからといって、自己判断でマイスリーを追加で服用したり、あるいは他の医師からルネスタとマイスリーの両方を処方されたにも関わらず、その旨を伝えず両方服用したりすることは極めて危険です。

もし、ルネスタを服用しているが効果が不十分である、あるいは副作用に悩んでいるという場合は、必ず処方医に相談してください。
医師は、現在の治療状況を評価し、必要であればルネスタの用量調整、マイスリーを含む別の種類の睡眠薬への切り替え、あるいは作用機序の異なるデエビゴなどの薬剤との併用などを検討します。
しかし、それはあくまで専門的な判断に基づくものであり、類似作用機序の薬の安易な併用は避けられます。

複数の医療機関を受診している場合や、他の薬を服用している場合は、必ず全ての医療機関で現在服用中の薬剤(市販薬やサプリメントを含む)を正確に伝えることが、薬の安全な使用のために不可欠です。

トラゾドンやロゼレムとの併用について

デエビゴやエスゾピクロンといった睡眠薬は、不眠症の背景にある原因や患者さんの状態によっては、トラゾドンやロゼレムといった他の薬剤と併用されることがあります。
これらの薬剤は、デエビゴやエスゾピクロンとは異なる作用機序を持つため、医師の判断で組み合わせて使用されることがあります。

  • トラゾドン(製品名:レスリン、デジレルなど): 主に抗うつ薬として使用される薬剤ですが、少量で強い眠気を催す作用があるため、不眠症治療薬としても広く用いられています。
    トラゾドンの催眠作用は、セロトニン2A受容体やヒスタミンH1受容体への作用など、エスゾピクロンやデエビゴとは異なるメカニズムによるものです。
    そのため、エスゾピクロンやデエビゴ単剤では対応しきれない不眠症状に対して、医師がこれらの薬剤とトラゾドンを併用することを検討する場合があります。
    特に、不眠に加えて抑うつ症状や不安がみられる患者さんに対して、トラゾドンが選択肢となることがあります。
    ただし、トラゾドンも中枢神経抑制作用を持つため、他の睡眠薬との併用は中枢抑制の増強に注意が必要です。
  • ロゼレム(一般名:ラメルテオン): 脳内のメラトニン受容体(MT1受容体とMT2受容体)に作用し、体内時計を調整して自然な眠りを促す薬剤です。
    入眠困難に対して特に効果が期待されます。
    エスゾピクロンやデエビゴとは全く異なる、より生理的なメカニズムに作用するため、これらの薬剤とロゼレムを併用することで、それぞれの薬だけでは得られなかった効果が期待できる可能性があります。
    例えば、エスゾピクロンで寝つきを良くしつつ、ロゼレムで概日リズムを整える、あるいはデエビゴで睡眠維持をサポートしつつ、ロゼレムで入眠をスムーズにする、といった組み合わせが医師によって検討されることがあります。
    ロゼレムは依存性や離脱症状のリスクが低いとされていますが、他の薬剤との併用に関しては医師の判断が不可欠です。

これらの薬剤との併用は、患者さんの個々の病態、不眠のタイプ、他の服薬状況などを総合的に評価した上で、医師が慎重に行うべき医療行為です。
自己判断でこれらの薬剤を組み合わせたり、現在服用中の薬に自己判断で追加したりすることは、思わぬ副作用や薬物相互作用を引き起こす可能性があるため、絶対に避けてください。
どのような場合でも、睡眠に関する悩みや薬の使用については、必ず医師や薬剤師に相談することが最も安全で確実な方法です。

安全な睡眠薬の使用のために医師・薬剤師へ相談を

不眠症は、単に眠れないというだけでなく、日中の活動能力や精神状態にも大きな影響を及ぼすつらい症状です。
エスゾピクロンやデエビゴといった睡眠薬は、正しく使用すれば不眠を改善し、生活の質を向上させる上で非常に有効なツールとなり得ます。
しかし、これらの薬剤は効果がある反面、副作用や薬物相互作用のリスクも伴います。
特に、複数の睡眠薬を併用する場合や、他の種類の薬剤を同時に服用している場合は、これらのリスクがさらに高まる可能性があります。

この記事で解説したように、エスゾピクロンとデエビゴを併用することは、医師が必要と判断した場合に限って慎重に行われることがありますが、それは決して安易なことではありません。
医師は、患者さん一人ひとりの不眠の正確な診断、不眠を引き起こしている背景要因(ストレス、生活習慣、基礎疾患など)、これまでの治療への反応、年齢、全身状態、そして現在服用している全ての薬剤(処方薬、市販薬、サプリメントなど)を詳細に把握した上で、最も安全かつ効果的な治療法を検討します。

睡眠薬の服用を開始する際、あるいは服用中に疑問や不安が生じた場合は、決して自己判断で薬の種類や量を変えたり、服用を中止したり、他の薬を追加したりしないでください。
これらの行為は、リバウンド不眠(薬を中止したことで以前より不眠が悪化すること)や離脱症状(薬の中止に伴って生じる様々な身体的・精神的症状)、予期せぬ副作用や薬物相互作用を引き起こす危険性があります。

安全に不眠症の治療を進めるためには、医師や薬剤師との密なコミュニケーションが不可欠です。

  • ご自身の不眠の症状(寝つき、途中の覚醒、早朝覚醒、眠りの深さ、日中の眠気など)を正確に伝えましょう。
  • 現在服用している全ての薬剤、サプリメント、健康食品について、医師や薬剤師に伝えましょう。
  • アレルギーや副作用の経験、持病(特に肝臓病、腎臓病、呼吸器疾患、精神疾患など)についても正確に伝えましょう。
  • アルコールやカフェインの摂取習慣、喫煙習慣についても伝えましょう。
  • 薬を服用してみて感じた効果や副作用、体調の変化について、正直に伝えましょう。

医師や薬剤師は、提供された情報をもとに、最適な薬剤の選択、適切な用量・用法、併用薬との相互作用の評価、および起こりうる副作用とその対処法について丁寧に説明してくれます。
不安な点や理解できない点があれば、遠慮なく質問しましょう。

また、睡眠薬はあくまで不眠症治療の一つの手段です。
薬物療法と並行して、生活習慣の見直し(睡眠衛生指導)や、不眠に対する考え方を変える認知行動療法なども、不眠症の根本的な改善に有効な場合があります。
医師は、これらの非薬物療法についてもアドバイスしてくれるはずです。

安全で効果的な不眠症治療のためには、医師・薬剤師との信頼関係を築き、常に相談しながら治療を進めていくことが何よりも重要です。

【免責事項】
本記事は、エスゾピクロンとデエビゴの併用に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的なアドバイスを提供するものではありません。
個々の不眠症状や健康状態に応じた適切な治療法や薬剤の選択、併用に関する判断は、必ず医師の診察を受け、その指示に従ってください。
本記事の情報に基づいて行われたいかなる行為についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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