院長コラム

両顎手術の「回転」とは?時計回転・反時計回転の違いと顔の変化を医師が解説

両顎手術における「回転」とは

両顎手術は、上顎・下顎・顎先(オトガイ)の3つの骨を同時に移動させ、咬合と輪郭の調和を整える高度な手術です。
術式としては、上顎はLe FortⅠ型骨切り、下顎はBSSO(またはSSRO)、顎先はオトガイ形成を組み合わせて行われます。

このとき重要になるのが「移動」と「回転」です。
上顎と下顎を単純に前後や上下に動かすだけでなく、“軸を中心に回転(ローテーション)させる”ことで、顔全体の立体バランスを整えるのです。

時計回転と反時計回転の基本

患者さんから「時計回転をかける」「反時計回転をかける」といった表現を耳にすることがあります。
これは、顔を右側から見た際の骨の動き方を表しています。

  • 時計回転(Clockwise rotation)
     右側から見て、上顎が後下方へ、下顎が後退する動き。
     → 顔の下半分が引き締まり、ほうれい線や口角の角度が変わり、立体感が出やすい。

  • 反時計回転(Counterclockwise rotation)
     右側から見て、上顎が前上方へ、下顎が前方に移動する動き。
     → 下顎がやや前方に出て、口元の突出を改善。受け口矯正やガミースマイル改善に有効。

つまり、回転方向によって顔全体の印象・バランスが大きく変わるのです。

時計回転がもたらす顔の変化

時計回転では、下顎が後方・上方向へ動きます。
この動きにより、下顔面(口元〜顎先)がコンパクトになり、顔全体が引き締まった印象になります。

また、

  • 頬に立体感が出る

  • ほうれい線の傾きが緩やかになる

  • 鼻下〜人中の傾斜が自然に整う
    といった“若返り・フェミニン化”の効果を伴うケースが多いです。

ただし、すべての患者に時計回転が適しているわけではありません。
上顎・下顎の位置関係や咬合状態、表情筋のつき方によっては、反対方向の回転が自然な輪郭を作る場合もあります。

反時計回転が必要なケース

反時計回転は、下顎を前方に出す方向の回転です。
「下顎が引っ込んでいる」「ガミースマイルがある」「上顎が前に出ている」といった場合に行われます。

クラスⅡ(上顎前突)タイプの患者では、反時計回転により下顎を前方へ誘導することで、

  • 噛み合わせの改善

  • ガミースマイルの軽減

  • 口元の自然なEライン形成
    が得られます。

一見「顎が前に出て長くなりそう」と感じる方もいますが、実際には上顎を短縮しながら反時計回転を行うため、顔全体の長さを調整しつつバランスを取ることが可能です。

回転の3つの軸と立体的な骨移動

外科医が両顎手術で「回転」を考えるとき、実際には3つの軸を基準に評価します。

  1. 前後軸(矢状軸)
     前後の動きに対して回転がかかると、口角の傾きや顎のねじれを補正します。

  2. 左右軸(横軸)
     顔の横から見た際の時計回転・反時計回転。
     咬合平面(噛み合わせライン)の傾きを整え、頬骨や下顎角の高さバランスを修正します。

  3. 上下軸(縦軸)
     ガミースマイル改善や口元の短縮など、縦方向の骨調整に関わります。

これら3軸の組み合わせで、3次元的な回転・移動を設計します。
単なる「上下」「前後」ではなく、“回転+移動の組み合わせ”で理想の立体バランスを作るのが両顎手術の特徴です。

3Dシミュレーションで実現する精密な設計

従来はレントゲン(セファロ)を紙上でトレースして骨移動を計画していました(ペーパーサージェリー)。
しかし現在では、3Dシミュレーションソフトを用いた立体設計が主流です。

このソフトでは、

  • 各部位の骨移動量(mm単位)

  • 回転角度

  • 咬合・関節位置のバランス
    をリアルタイムで確認できます。

特に、部位によって移動量や短縮量が異なるため、2Dでは評価しきれない微細な動きを3Dで再現できるのが大きなメリットです。
この技術により、術中の精度と安全性が格段に向上しました。

回転と顔の印象を決めるポイント

両顎手術における「回転」は、単に骨を動かすだけでなく、
表情筋・皮膚・咬合・関節など複数の構造に影響します。

そのため、次の点を医師が総合的に評価します。

  • 咬合(噛み合わせ)の位置

  • 上顎・下顎の対称性

  • 鼻下・口角・人中の傾き

  • 顎先のラインと長さ

  • 表情筋や皮膚のテンション

これらを考慮しながら回転角度を設計することで、自然で美しい顔の動的バランスを作り出します。

まとめ:回転を理解して理想の輪郭へ

両顎手術の「回転」は、単なる骨移動ではなく、
顔全体の立体感・長さ・表情バランスを決める重要な工程です。

時計回転・反時計回転のどちらが適しているかは、
顎の長さ・噛み合わせ・ガミースマイルの有無などにより異なります。

医師の3Dシミュレーションに基づく計画のもと、
自分に合った回転方向と移動量を見極めることが、美しく自然な仕上がりへの第一歩です。

よくある質問(Q&A)

Q1. 時計回転と反時計回転はどちらが良いですか?
A. 顔の骨格や噛み合わせにより異なります。若返り効果を狙うなら時計回転、ガミースマイル改善や受け口矯正には反時計回転が選ばれることが多いです。

Q2. 回転をかけると顔が変わりますか?
A. はい。顎や口角の位置、頬の立体感、人中の角度などが変化します。自然なバランスを取るには3Dシミュレーションが必須です。

Q3. 3Dシミュレーションはどのようなものですか?
A. 骨格を立体的に再現し、移動量・回転角度を可視化できるソフトです。精度の高い手術計画に欠かせません。

Q4. 手術後の顔の印象が心配です。
A. 術前にシミュレーションで完成イメージを確認できます。事前のカウンセリングで希望を丁寧に共有することが大切です。

監修者情報

宮﨑 邦夫

リノクリニック東銀座 院長

【資格・所属学会】
日本外科学会専門医 / 日本外科学会会員 / 日本形成外科学会会員 / 日本頭蓋顎顔面外科学会会員 / 日本美容外科学会会員

消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・小児外科など外科研修ののち、外科専門医を取得。その後、形成外科で6年、美容外科で7年実績を積み、リノクリニック東銀座を開業、院長を務める。美容外科の技術は韓国や台湾、アメリカなどへ出向き、良質な技術を取り入れて日々の診療に生かしている。 2014年から在籍していた湘南美容クリニックでは指導医として若手美容外科医の教育にも尽力し、同院で行われた美容外科コンテストで2年連続ではグランプリを獲得。次の東京美容外科では骨切りメニューの立ち上げを行い、スタッフ教育にも尽力した。

監修日:2025.10.14

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