院長コラム
「脇の臭いが気になる」「制汗剤を塗っても夕方には不安になる」——そんなお悩みで来院される方に向けて、今回はワキガの極小切開法とは何か、その仕組みを解説します。
私は東銀座で外科専門医として腋臭症の手術を担当していますが、カウンセリングでよく聞かれるのが「傷が小さい手術でも、臭いは改善できますか?」という質問です。
人から臭いを指摘されたことがある方、シャツの脇に黄ばみが出る方、電車でつり革を持つのがためらわれる方。悩みの程度や、治療に求めることは人それぞれです。
この記事では、極小切開法が皮膚の下で何をしている手術なのか、剪除法と何が違うのか、術後の生活や費用まで、私自身の診療経験も交えてお話しします。
目次
この記事でわかること
- ワキガの極小切開法とは何か、皮膚の下でどのような処置を行うのか
- 剪除法と極小切開法の違いと、それぞれを検討するときの考え方
- 術後に起こりうる腫れ・内出血・傷跡などの経過
- 保険診療と自由診療の違い、手術を選ぶときに確認したいポイント
ワキガの極小切開法とは何か
まず言葉の整理からしておきます。
「極小切開法」は、全国で統一された一つの正式な術式名ではありません。
一般的には、小さな切開から専用の器具を皮膚の下へ入れ、アポクリン汗腺が存在する皮膚の裏側を掻爬・吸引する方法などを指して使われています。
吸引掻爬法、シェーバー法など、使用する器具や手術方法によって名称が異なることもあります。
そのため、他院の「極小切開法」「マイクロシェーバー法」「吸引法」がすべて同じ手術というわけではありません。
カウンセリングで「他院で見た○○法と何が違うのですか」と聞かれることがありますが、名称だけで比較するのではなく、実際にどの層をどのような器具で処理する手術なのかを確認することが大切です。
原理としては、小さな切開から器具を挿入し、皮膚の裏側にある組織を掻爬・吸引することで、腋臭症に関係するアポクリン汗腺を減らしていきます。
一方、剪除法では皮膚を反転させ、医師が皮膚の裏側を直接確認しながらアポクリン汗腺を処理します。
つまり、極小切開法と剪除法の大きな違いの一つが、「皮膚の裏側を直接見ながら処理するかどうか」です。
極小切開法のメリットは、切開を小さくできることです。
ただし、傷が小さいからといって必ずしもすべての方に適しているわけではありません。
一方で、傷跡への希望やダウンタイム、臭いの程度などを確認したうえで適応を判断すれば、治療の選択肢の一つになると考えています。
極小切開法の仕組みを解説

極小切開法の仕組みを理解するには、脇の皮膚と汗腺の位置関係を知っておくとわかりやすいと思います。
ワキガ特有の臭いには、アポクリン汗腺から分泌される成分が関係しています。
アポクリン汗腺から分泌された臭いの前駆物質が皮膚常在菌によって代謝されることで、特徴的な臭い物質が生じることが知られています。
極小切開法では、このアポクリン汗腺が存在する皮膚の裏側に器具を入れて処理します。
STEP 1|小さな切開から器具を挿入する
脇の皮膚に小さな切開を加え、そこから処置を行うための器具を挿入します。
実際の切開位置や切開の大きさ、使用する器具は術式によって異なります。
また、必要に応じて局所麻酔液などを使用しながら手術を進めます。
STEP 2|皮膚の裏側を掻爬・吸引する
切開部から器具を挿入し、皮膚の裏側にある組織を掻爬・吸引します。
剪除法が、皮膚を反転させて医師が直接確認しながら処理する方法なのに対し、極小切開法では小さな切開から器具を操作して処理していきます。
このため、皮膚を大きく切開せずに治療できる一方で、剪除法のようにアポクリン汗腺を直接目で確認しながら処理するわけではありません。
STEP 3|処理する層を調整する
この手術で重要なのが、どの層をどこまで処理するかです。
処理が不十分であればアポクリン汗腺が残り、臭いが十分に改善しない可能性があります。
一方で、皮膚側を過度に処理すると、皮膚の血流障害、びらん、色素沈着、皮膚壊死などにつながる可能性があります。
吸引掻爬法やシェーバー法などでは、術者が皮膚の厚みや組織の状態を確認しながら処置範囲を調整する必要があります。
極小切開法は「傷が小さい=簡単な手術」ではありません。
見えない範囲を器具で処理するからこそ、適切な範囲と深さを判断することが重要です。
STEP 4|洗浄・止血・閉創
必要な範囲を処理したあと、出血の状態を確認し、洗浄して創部を閉じます。
手術方法や術後の状態によって、固定やドレーンなどの管理方法も異なります。
当院での具体的な手術方法や術後管理については、診察時にご説明します。
極小切開法と剪除法の違い
腋臭症の手術には複数の方法があります。
その中で、剪除法は皮膚の裏側を直接確認しながらアポクリン汗腺を処理する方法です。
厚生労働省の診療報酬では、「K008 腋臭症手術」の「皮弁法」として点数が設定されています。
剪除法の大きな特徴は、アポクリン汗腺を医師が直接確認しながら処理できることです。
一方で、切開や皮下の剥離を伴うため、傷跡や術後の安静についても考える必要があります。
極小切開法では、小さな切開から器具を入れて処理するため、剪除法とはアプローチが異なります。
吸引掻爬法などの小切開手術と開放手術を比較した研究では、小切開による手術は急性期の合併症が少ない一方、開放手術のほうが再発・効果不十分が少なかったという報告があります。
ただし、「極小切開法」という名称で行われている手術にはさまざまな術式があり、使用する器具や手技も異なります。
そのため、「極小切開法だから必ずダウンタイムが短い」「剪除法だから必ず効果が高い」と一律に判断するのではなく、実際の手術方法と患者さんの状態を見て選ぶ必要があります。
では、どちらを選べばいいのか。
私は、臭いの悩みの程度だけではなく、傷跡をどこまで許容できるのか、どの程度休みが取れるのか、これまでどのような治療を受けてきたのか、そして患者さん自身が治療に何を求めているのかを確認します。
「臭いが強いから必ず剪除法」「軽いから極小切開法」という単純な分け方はしていません。
それぞれのメリットとデメリットを理解したうえで、治療方法を決めることが大切です。
極小切開法の術後経過

極小切開法でも、手術である以上ダウンタイムがあります。
「傷が小さいから翌日から完全にいつも通り」とは限りません。
腫れ、内出血、痛み、つっぱり感などは起こり得ます。
手術直後〜数日
手術した範囲に腫れや内出血、痛み、こわばりなどが出ることがあります。
腕を大きく動かしたり、重い荷物を持ったりすると創部に負担がかかるため、術後の状態に応じて動作を制限していただきます。
術後1週間前後
腫れや内出血は徐々に落ち着いていきます。
縫合を行った場合の抜糸時期については、傷の状態を確認しながら判断します。
この時期はまだ組織が治癒している途中なので、臭いの改善度を最終評価する時期ではありません。
術後数週間〜数か月
内出血や腫れが落ち着いたあとも、硬さ、つっぱり、色素沈着、感覚の変化などが残る場合があります。
傷跡についても、最初は赤みがあり、その後時間をかけて徐々に落ち着いていきます。
臭いの改善についても、術後すぐではなく、組織が落ち着いてから評価していきます。
仕事復帰の時期は仕事内容によって異なります。
デスクワークなど脇を大きく動かさない仕事と、看護師・介護職・美容師・飲食業・運送業など腕を頻繁に使う仕事とでは、必要な調整期間が違います。
そのため、「翌日から必ず仕事ができます」「○日休めば大丈夫」と一律にはお伝えしていません。
仕事内容と手術内容を確認したうえで、術後の予定を一緒に考えます。
また、極小切開法でも、血腫、感染、皮膚のびらん・血流障害、皮膚壊死、色素沈着、瘢痕、感覚低下、皮下の癒着、腋毛の減少、臭いの残存・再発などが起こる可能性があります。
ワキガ手術の費用と保険診療
腋臭症手術の費用については、剪除法と極小切開法で考え方が異なります。
剪除法に相当する皮弁法は、厚生労働省の診療報酬で「K008 腋臭症手術」として定められており、現在、皮弁法は6,870点です。
診察のうえで保険診療として腋臭症手術の適応と判断された場合には、健康保険を使用して手術を行うことができます。
ただし、実際の窓口負担は、自己負担割合、片側・両側の手術、初診・再診、術前検査、麻酔、薬剤、術後処置などによって変わります。
そのため、「両脇なら必ず○万円」と一律にはお伝えしていません。
一方、当院で自由診療として行う極小切開法については、料金表をご確認ください。
ここで一点、私がカウンセリングで必ずお伝えしていることがあります。
費用だけで術式を決めることはおすすめしていません。
「保険が使えるから剪除法」「傷が小さいから極小切開法」という選び方だけでは、それぞれの手術の特徴を十分に比較できません。
臭いをどの程度改善したいのか、傷跡をどこまで許容できるのか、仕事をどの程度休めるのか、これまで治療を受けたことがあるのか。
症状、生活、費用、そして患者さんの希望を並べて考えることが重要です。
極小切開法が向いているのはどんな人?
では、どんな方が極小切開法を検討するのでしょうか。
私は、単純に臭いの「軽度・中等度・重度」だけで治療を振り分けてはいません。
診察では、次のような点を確認します。
- 臭いによって日常生活でどの程度困っているのか
- 制汗剤などのセルフケアを行っても悩みが続いているか
- 傷跡をどの程度気にするか
- 仕事や学校などで、術後にどの程度休みを取れるか
- 過去に腋臭症の治療や手術を受けたことがあるか
- 糖尿病、喫煙、内服薬など創傷治癒に影響する要因がないか
傷跡をできるだけ小さくしたい方や、剪除法以外の外科治療を希望する方では、極小切開法が選択肢になることがあります。
一方、以前に手術を受けている方では皮下に癒着がある場合があり、同じ方法で治療できるとは限りません。
また、皮膚の状態や持病によっては、手術方法や時期そのものを慎重に検討する必要があります。
私が診察で確認しているのは、症状がいつからあるか、どの場面で困るか、耳垢の性状、衣類の黄ばみ、家族歴、発汗量、これまで行ってきたセルフケアや治療歴などです。
湿った耳垢とABCC11遺伝子型、腋臭症との関連は研究でも報告されています。
ただし、耳垢が湿っている、家族にワキガの方がいる、衣類が黄ばむ、といった一つの所見だけで手術を決めるわけではありません。
複数の情報と診察所見を合わせて、腋臭症として治療が必要なのか、どの治療が適しているのかを判断します。
また、ご本人が強く臭いを気にしていても、すぐに手術を選ぶべきとは限りません。
まず外用治療など別の方法を検討したほうがよい場合には、その選択肢もお伝えします。
手術をしないという選択肢まで含めて考えることも、診察では大切だと思っています。
よくある質問
Q. 制汗剤が効かず、シャツの脇が黄ばみます。これはワキガでしょうか?
A. 衣類の黄ばみは腋臭症の方でみられることがあり、診察時の参考情報の一つになります。
ただし、黄ばみだけで腋臭症と診断することはできません。
症状の経過、耳垢の性状、家族歴、発汗、これまでの治療なども確認して総合的に判断します。
Q. 極小切開法で臭いは完全になくなりますか?
A. 完全に臭いがなくなることを保証する手術ではありません。
極小切開法ではアポクリン汗腺が存在する層を掻爬・吸引しますが、剪除法のようにすべてを直接見ながら処理する方法ではありません。
臭いが十分に改善する方もいますが、汗腺が残って臭いを感じる可能性や、再治療が必要になる可能性もあります。
どの程度の改善を希望しているかまで確認したうえで、剪除法を含めて治療方法をご提案します。
Q. 傷跡はどのくらい目立ちますか?
A. 極小切開法は、剪除法と比較して小さな切開から処置を行えることが特徴です。
ただし、切開を伴う以上、傷跡がまったく残らないわけではありません。
術後しばらくは赤みや色素沈着がみられることがありますし、体質によっては傷が盛り上がったり、目立ったりすることもあります。
傷の経過についても術後診察で確認していきます。
まとめ|極小切開法と剪除法はどう選ぶ?
- 「極小切開法」は統一された一つの正式術式名ではなく、小切開から器具を入れてアポクリン汗腺がある層を掻爬・吸引する方法などを指して使われる
- 剪除法は皮膚の裏側を直接確認しながらアポクリン汗腺を処理する点が大きな特徴
- 極小切開法は切開を小さくできる一方、臭いの残存・再発や皮膚トラブルなどのリスクもある
- 剪除法と極小切開法のどちらが適しているかは、臭いの程度だけではなく、傷跡、ダウンタイム、治療歴、生活状況、希望を含めて判断する
- 剪除法の皮弁法は保険診療の対象となる場合があるが、実際の自己負担額は診療内容によって異なる
- 手術方法の名前だけで選ばず、実際にどのような処置を行うのかまで確認することが大切
ワキガ治療では、「傷をできるだけ小さくしたい」「臭いをしっかり改善したい」「長く仕事を休めない」など、患者さんによって優先順位が違います。
どの術式にもメリットとデメリットがあり、すべての方に一つの手術が最適というわけではありません。
ネットの情報だけで術式を決めるのではなく、まずは診察で状態と希望を整理していただければと思います。
なお、効果や術後の経過には個人差があります。
関連動画
リノクリニック東銀座のYouTubeでは、ワキガの原因、剪除法と切らない治療の違い、術後のダウンタイム、多汗症との違いなどを医師が解説しています。治療を検討している方は、あわせてご覧ください。
当院のご案内
リノクリニック東銀座では、外科専門医が腋臭症の診察から手術、術後の経過観察まで担当しています。
保険診療で行う剪除法(皮弁法)や自由診療の治療を含め、症状や傷跡への希望、仕事・学校などの生活状況を確認したうえで治療方法をご提案します。
「極小切開法と剪除法のどちらが合うのか分からない」「自分は保険診療の対象になるのか知りたい」という段階でもご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省.診療報酬の算定方法 K008 腋臭症手術.
- Nomura M, et al. Open versus Closed Surgery for Axillary Osmidrosis: A Meta-Analysis of Articles Published in Four Languages. Ann Dermatol. 2021;33(1):13-21.
- Rezende RM, et al. Surgical treatment of axillary hyperhidrosis by suction-curettage of sweat glands. An Bras Dermatol. 2014;89(6):940-954.
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- Nakano M, Miwa N, Hirano A, Yoshiura K, Niikawa N. A strong association of axillary osmidrosis with the wet earwax type determined by genotyping of the ABCC11 gene. BMC Genet. 2009;10:42.
- Natsch A, Gfeller H, Gygax P, Schmid J, Acuna G. A specific bacterial aminoacylase cleaves odorant precursors secreted in the human axilla. J Biol Chem. 2003;278(8):5718-5727.
監修者情報

宮﨑 邦夫
リノクリニック東銀座 院長【資格・所属学会】
日本外科学会専門医 / 日本外科学会会員 / 日本形成外科学会会員 / 日本頭蓋顎顔面外科学会会員 / 日本美容外科学会会員
消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・小児外科など外科研修ののち、外科専門医を取得。その後、形成外科で6年、美容外科で7年実績を積み、リノクリニック東銀座を開業、院長を務める。美容外科の技術は韓国や台湾、アメリカなどへ出向き、良質な技術を取り入れて日々の診療に生かしている。 2014年から在籍していた湘南美容クリニックでは指導医として若手美容外科医の教育にも尽力し、同院で行われた美容外科コンテストで2年連続ではグランプリを獲得。次の東京美容外科では骨切りメニューの立ち上げを行い、スタッフ教育にも尽力した。
監修日:2026.09.14



