院長コラム
「Face-Driven PlanningはSurgery Firstの人だけの話?」
「保険の両顎手術で、矯正を先にする予定だけど関係あるの?」
結論から言うと、Face-Driven Planningは治療の順序ではなく設計思想なので、矯正を先に行うOrthodontic First(オーソドンティックファースト)でも使えます。矯正の工程そのものは同じですが、「顔のゴールから逆算した骨の位置に合う歯並び」を目標に矯正を進める点が違います。保険診療の枠組みの中でも、「噛み合わせも顔貌もよりよくなる移動量・術式はどれか」を考えることはできます。
この記事は、院長の宮﨑 邦夫(日本外科学会認定 外科専門医)が、Face-Driven Planningシリーズの第5回として書いています。前回はFace-Driven PlanningとSurgery Firstでした。
目次
この記事でわかること
- Orthodontic Firstとはどんな治療の進め方か
- 従来の矯正先行と、Face-Driven Planningでの矯正先行の違い
- 上あごの位置決めで差が出やすい理由
- 保険診療でFace-Driven Planningの考え方をどう活かすか
Orthodontic Firstとは
Orthodontic Firstとは、手術の前に矯正で歯並びを整え、そのあとに手術を行い、手術後の矯正で仕上げる治療の進め方です。
日本の両顎手術は保険診療が中心だった時代が長く、保険の両顎手術は基本的にこの順番で行われます。この進め方の出発点は、多くの場合セファロ分析と噛み合わせのデータです。骨格の数値と噛み合わせのずれから移動量を計算して術式を決め、顔の変化は「手術をすればこのくらい変わるでしょう」という予測として示されます。
これは合理的な方法です。特に噛み合わせの改善が最大の目標であれば、とても有効です。そのうえで、自費で両顎手術を受ける方が増えた今、矯正を先に行う場合でも、顔から設計する価値が大きくなっています。
矯正のゴールの決め方が違う
違いは、術前矯正の「ゴールの根拠」にあります。
- 従来 歯列の分析 → 矯正計画 → 移動量の計算 → 手術 → 顔の変化(結果)
- Face-Driven Planning 顔のゴール → 移動量の逆算 → 矯正計画 → 手術 → 顔の変化(目標へ)
従来のOrthodontic Firstでは、術前矯正の目標は「手術のときに噛み合う歯並びをつくること」で、矯正のゴールは手術に合わせて決まります。
Face-Driven PlanningでのOrthodontic Firstでは、まず顔のゴールを決め、そのゴールに必要な骨の移動量を決めます。そのうえで、その骨の位置でClass Iの噛み合わせになる歯並びを、術前矯正でつくります。
矯正の工程は同じでも、「セファロの数値に合わせた歯並び」をつくるのか、「顔のゴールから逆算した骨の位置に合わせた歯並び」をつくるのかが違います。
上あごの位置決めで差が出る
この違いが特に大きく出るのが、上あごの位置の決め方です。
セファロを起点にすると、上あごの前後の位置はSNA角などの数値で評価され、「正常範囲なら動かさない」という判断になりやすくなります。
ところが顔全体を見ると、上あごを少し後ろへ下げたほうが全体のバランスがよくなるケースがあります。数値は正常でも、顔としては動かしたほうがよい、ということです。
Face-Driven Planningでは顔のゴールが先にあるので、「正常値だから動かさない」ではなく「この顔に近づけるために動かすべきか」で判断します。その結果、上下のあごを同時に動かす手術(Le Fort I型骨切り術+下顎枝矢状分割術SSRO)が適しているかどうかを、より的確に判断できるようになります。
保険診療での活かし方
保険の両顎手術は、顎変形症の診断に基づく噛み合わせの改善が目的です。顔の変化は、副次的な効果として説明されることが多くあります。
それでも、実際に手術を受ける方の多くは、顔の変化にも大きな期待を持っています。「噛み合わせも治るし、顔も変わる」と考えて手術を決める方は少なくありません。
保険診療の枠組みの中でも、Face-Driven Planningの考え方を取り入れることはできます。噛み合わせの改善を第一の目標にしつつ、「どの移動量・術式なら、噛み合わせも顔貌もよりよい形に近づけられるか」を考えます。完全な顔貌起点ではなくても、「顔のことも考えて計画している」ことは、患者様の安心と納得につながると考えています。
すべてで完璧ではなくても
正直に書くと、私自身、すべてのケースで完全なFace-Driven Planningを行えているわけではありません。保険の制約、矯正歯科医との連携の形、患者様が何を優先したいか。ケースごとに最適なバランスは異なります。
それでも、設計思想として「顔を起点に考える」ことを常に頭に置いておくと、計画の質が変わります。少なくとも、「セファロの数値だけで計画を決め、顔は結果として受け入れてもらう」という進め方から一歩進むことができます。
よくある質問
Q. 矯正を先にする場合、手術で顔はあまり変わらないのですか?
A. 治療の順序によって、最終的な顔の変化の大きさが決まるわけではありません。変化の大きさを決めるのは骨の移動量と方向です。矯正を先に行う場合でも、顔のゴールから移動量を逆算して計画できます。
Q. 保険の両顎手術でも、顔のバランスを考えてもらえますか?
A. 保険診療は噛み合わせの改善が主な目的ですが、その範囲の中で、噛み合わせと顔貌の両方がよりよくなる計画を検討します。保険の適用条件や自費との違いは、カウンセリングで個別にご説明します。
Q. 今かかっている矯正歯科で術前矯正を続けながら相談できますか?
A. ご相談いただけます。外科と矯正が同じゴールを共有できるよう、現在の治療状況や検査データを確認したうえで、進め方をご提案します。
まとめ
- Face-Driven Planningは治療の順序ではなく設計思想なので、Orthodontic Firstでも使える
- 矯正の工程は同じでも、「顔のゴールから逆算した骨の位置に合う歯並び」を目標にする点が違う
- 特に上あごの位置決めで、「正常値だから動かさない」ではなく「顔のために動かすべきか」で判断できる
- 保険診療でも、噛み合わせを第一にしつつ顔貌も考えた計画を立てられる
次回は最終回です。Face-Driven Planningがこれからの顎顔面治療をどう変えていくかを書きます。Face-Driven Planningが変える顎顔面治療の未来
当院のご案内
リノクリニック東銀座は、東京都中央区銀座3丁目11-13 松本銀座ビル9階(東銀座駅から徒歩3分)にある美容外科・形成外科です。院長は宮﨑 邦夫(日本外科学会認定 外科専門医、外科経験20年以上)。保険・自費を問わず、両顎手術(OGS)について顔貌と噛み合わせの両面から治療計画をご提案しています。
監修者情報

宮﨑 邦夫
リノクリニック東銀座 院長【資格・所属学会】
日本外科学会専門医 / 日本外科学会会員 / 日本形成外科学会会員 / 日本頭蓋顎顔面外科学会会員 / 日本美容外科学会会員
消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・小児外科など外科研修ののち、外科専門医を取得。その後、形成外科で6年、美容外科で7年実績を積み、リノクリニック東銀座を開業、院長を務める。美容外科の技術は韓国や台湾、アメリカなどへ出向き、良質な技術を取り入れて日々の診療に生かしている。 2014年から在籍していた湘南美容クリニックでは指導医として若手美容外科医の教育にも尽力し、同院で行われた美容外科コンテストで2年連続ではグランプリを獲得。次の東京美容外科では骨切りメニューの立ち上げを行い、スタッフ教育にも尽力した。
監修日:2026.10.24



