院長コラム
「両顎手術の前に、何年も矯正をしないといけないの?」
「Surgery Firstなら、すぐに顔を変えられるの?」
結論から言うと、Surgery Firstは術前矯正を省略または短縮して先に手術を行う治療の順序で、「顔のゴールに向かって最初に骨を動かす」という点でFace-Driven Planningと非常に相性のよい方法です。ただし、すべての方に向くわけではありません。歯並びのガタつきが強い場合などは、手術前に最低限の矯正が必要になることもあります。治療の順序は慣習ではなく、顔のゴールから逆算して決めます。
この記事は、院長の宮﨑 邦夫(日本外科学会認定 外科専門医)が、Face-Driven Planningシリーズの第4回として書いています。前回はFace-Driven Planningの実際|カウンセリングから治療計画まででした。
目次
この記事でわかること
- Surgery Firstとはどんな治療の進め方か
- Face-Driven PlanningとSurgery Firstの相性がよい理由
- Surgery Firstで重要になるスプリント設計と、外科と矯正の連携
- Surgery Firstを選ばないほうがよいケース
Surgery Firstとは
Surgery First(サージェリーファースト)とは、術前矯正を行わずに、あるいは最小限にして手術を先に行い、手術後の矯正で噛み合わせを仕上げる治療の進め方です。
従来の両顎手術では、手術の前に1〜2年かけて矯正で歯並びを整えるのが一般的でした。Surgery Firstでは、その順番を入れ替えます。
患者様にとっての大きな利点は、顔の変化を早い段階で得られることです。「顔を変えたい」と思って来院された方が、手術の前に1〜2年の矯正期間を過ごすのは、気持ちの面でも負担が大きいものです。Surgery Firstであれば、早い時期に変化を実感しやすくなります。
FDPと相性がよい理由
Face-Driven Planningは顔のゴールを先に決める考え方で、Surgery Firstは手術を先に行う進め方です。この二つを組み合わせると、「顔のゴールに向かって、最初に骨を動かす」という一貫した流れになります。
- 従来の流れ 矯正で歯並びを整える → セファロから移動量を計算 → 手術 → 顔の変化は最後にわかる答え
- Face-Driven Planning+Surgery First 顔のゴールを決める → ゴールに合わせて骨を動かす → 手術後の矯正で噛み合わせを仕上げる → 顔の変化は最初に決めた目標
従来の流れでは、顔は「最後に判明する結果」です。Face-Driven PlanningとSurgery Firstの組み合わせでは、顔は「最初に設定する目標」になります。
スプリントの設計が要になる
Surgery Firstには技術的な条件があります。
術前矯正を省く以上、手術のときの噛み合わせは最終形ではありません。手術ではスプリント(咬合床:上下の歯の位置関係を決めるマウスピース状の装置)を使って一時的な噛み合わせの位置を決め、手術後の矯正で最終的なClass Iの噛み合わせに持っていきます。
このスプリントの設計がとても重要です。Face-Driven Planningで決めた顔のゴールと、手術後の矯正で到達できる噛み合わせのゴール。その両方を見据えて設計する必要があります。
外科と矯正が同じゴールを見る
スプリントを正しく設計するには、外科医と矯正歯科医の密な連携が欠かせません。顔のゴールは外科医が主導し、噛み合わせのゴールは矯正歯科医が主導します。二つのゴールをすり合わせて、スプリントの設計に落とし込みます。
私が韓国で学んだことの一つが、この連携の密度でした。韓国では外科医と矯正歯科医が同じ施設にいて、カウンセリングの段階から一緒に計画を立てるケースが多くあります。
日本では外科医と矯正歯科医が別の施設にいることが多く、情報のやりとりが紹介状やデータの送付になりがちです。そうすると「外科は外科、矯正は矯正」で計画が分かれてしまいやすい。当院では、手術前後の矯正計画も含めて、同じゴールを見て計画を立てることを大切にしています。
Surgery Firstを選ばない場合
すべてのケースでSurgery Firstが最適なわけではありません。
- 歯並びのガタつき(叢生)が強く、手術前に最低限の歯列の整理(レベリング)が必要な場合
- 手術後に顎間ゴム(上下の装置をつなぐゴム)を使うのが難しく、術前矯正で準備しておくほうが安全な場合
Face-Driven Planningは設計思想であり、必ずSurgery Firstとセットになるわけではありません。顔のゴールを決めたうえで、それを最も安全に、効果的に実現できる順序を選びます。Surgery Firstになることもあれば、短い術前矯正を挟むこともあります。
大切なのは、治療の順序が「いつもこうしているから」で決まるのではなく、「ゴールからの逆算」で決まることです。
合理的であることと、安易に選んでよいことは違います。Surgery Firstを安全に行うには、顔の設計・骨切りの術式・噛み合わせの管理のすべてに高い精度が求められます。
よくある質問
Q. Surgery Firstなら矯正はしなくていいのですか?
A. いいえ。Surgery Firstは矯正を手術の後に回す進め方で、矯正そのものがなくなるわけではありません。手術後の矯正で最終的な噛み合わせを仕上げます。
Q. 自分がSurgery Firstに向いているか、どうやってわかりますか?
A. 歯並びのガタつきの程度、骨格のずれ、顎間ゴムが使えるかなどを診察と検査で確認して判断します。向かない場合は、短い術前矯正を挟む方法や矯正を先に行う方法をご提案します。
Q. Surgery Firstは保険診療でも受けられますか?
A. 一般に、保険診療の両顎手術は矯正を先に行う進め方が中心で、Surgery Firstは自費診療で行われることが多い方法です。保険・自費の違いや適応は、カウンセリングで個別にご説明します。
まとめ
- Surgery Firstは術前矯正を省略または短縮して先に手術を行い、手術後の矯正で噛み合わせを仕上げる進め方
- 顔のゴールに向かって最初に骨を動かすため、Face-Driven Planningと相性がよい
- スプリントの設計には、顔のゴールと噛み合わせのゴールの両方を見据えた外科と矯正の連携が欠かせない
- 歯並びのガタつきが強い場合などはSurgery Firstを選ばないこともある
- 治療の順序は慣習ではなく、ゴールからの逆算で決める
次回は、矯正を先に行うOrthodontic Firstでも、Face-Driven Planningが使えるという話を書きます。Orthodontic Firstでも使えるFace-Driven Planning
当院のご案内
リノクリニック東銀座は、東京都中央区銀座3丁目11-13 松本銀座ビル9階(東銀座駅から徒歩3分)にある美容外科・形成外科です。院長は宮﨑 邦夫(日本外科学会認定 外科専門医、外科経験20年以上)。両顎手術(OGS)について、Surgery Firstの適応判断を含め、顔貌のゴールから治療の進め方をご提案しています。
監修者情報

宮﨑 邦夫
リノクリニック東銀座 院長【資格・所属学会】
日本外科学会専門医 / 日本外科学会会員 / 日本形成外科学会会員 / 日本頭蓋顎顔面外科学会会員 / 日本美容外科学会会員
消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・小児外科など外科研修ののち、外科専門医を取得。その後、形成外科で6年、美容外科で7年実績を積み、リノクリニック東銀座を開業、院長を務める。美容外科の技術は韓国や台湾、アメリカなどへ出向き、良質な技術を取り入れて日々の診療に生かしている。 2014年から在籍していた湘南美容クリニックでは指導医として若手美容外科医の教育にも尽力し、同院で行われた美容外科コンテストで2年連続ではグランプリを獲得。次の東京美容外科では骨切りメニューの立ち上げを行い、スタッフ教育にも尽力した。
監修日:2026.10.24



