院長コラム
脇のにおいにお悩みになり、手術について調べ始めると「タイオーバー」という聞き慣れない言葉に行き着く方は少なくありません。タイオーバーとは、薄く剥離した皮膚を下の組織にしっかりと密着させ、血腫(皮膚の下に血液がたまる状態)を防ぐための固定法であり、剪除法(皮弁法)の手術結果を左右する重要なプロセスです。腋臭症の手術は保険適用で受けることができ、当院では切開を約28ミリに抑え、術後4日間の固定を行っております(翌朝にはいったん外してシャワーを浴びていただくことが可能です)。
目次
この記事でわかること
- タイオーバー固定とは何か、なぜワキガ手術で必要なのか
- 血腫ができる仕組みと、皮弁が生着する解剖学的な理由
- 固定が強すぎたときの「圧迫障害」を自分で点検する方法
- 保険適用の剪除法の費用目安・回復期間・再手術の可能性
ワキガ手術のタイオーバーとは
タイオーバー(tie-over)とは、ガーゼや綿を丸めた「枕子(まくらこ)」を創部の上に置き、両脇に残した糸で結び合わせて圧迫・固定する方法です。もともとは皮膚移植(植皮)を生着させるために生まれた古典的な手技で、これをワキガの剪除法(皮弁法)に応用したものが、いわゆるワキガ手術のタイオーバー固定にあたります。
改めまして、リノクリニック東銀座院長の宮﨑邦夫(外科専門医)です。外科の現場に20年以上携わってきた経験からお伝えすると、腋臭症手術で最も重要なのはアポクリン腺を除去する手技そのものだけではなく、その後の「固定」の精度にあります。どれほど丁寧に腺を取り除いたとしても、術後の固定が不十分であれば良好な結果を得ることはできません。
なぜそこまで言うのか。剪除法では、脇のシワに沿って約28ミリ切開し、そこから皮膚を裏返して、真皮の裏側にびっしり付いているアポクリン腺を直視下で剪刀で切り取ります。終わった時点で、皮膚は薄い一枚の膜——ほとんど全層植皮に近い状態になっています。この薄い皮膚(皮弁)は、自分の血管をほとんど失っている。生き残るためには、下にある脂肪や筋膜から新しい血管が伸びてくるのを待つしかありません。
そのために必要なのが「密着」です。皮膚と下床の間に1ミリでも隙間(死腔)があれば、そこに血液や滲出液がたまり、血管は橋渡しできません。タイオーバーは、その隙間を物理的につぶし続ける装置だと考えてください。海外の皮膚外科領域のレビューでも、タイオーバー固定は植皮を固定する方法として最も広く使われてきたと報告されています。
タイオーバーが血腫を防ぐ仕組み

タイオーバーが血腫を防ぐ理由は三つあります。第一に死腔をつぶすこと。第二に、にじみ出る毛細血管からの出血を圧で止めること。第三に、腕を動かしたときに生じる「ズレ(剪断力)」から皮弁を守ることです。
脇というのは、人体の中でもかなり厄介な場所です。くぼんでいて、毛があって、汗をかいて、しかも腕を上げ下げするたびに皮膚が大きく動く。平らなところに貼った絆創膏とはわけが違います。実際、不整形で可動性の高い部位では固定が難しく、生着率が落ちやすいことが報告されています。だからこそ、脇では「どう取るか」と同じ重みで「どう押さえるか」を考えなければいけない。
血腫ができるとどうなるか。皮膚が下床から浮き上がり、栄養が届かなくなって、表面が黒く硬くなります。いわゆる皮弁壊死です。そこまでいかなくても、治りが遅れて傷あとが目立ちやすくなったり、取り残したアポクリン腺が残って臭いが再発したりする。私の経験では、術後のトラブルの大半は「腺の取り残し」ではなく「固定の失敗から始まった連鎖」です。
ここは正直に話しますが、タイオーバーが唯一絶対の方法かというと、そうではありません。海外の系統的レビューでは、タイオーバーを使わなくても、縫い留める方法(キルティング縫合)や発泡素材の圧迫で同等の生着が得られたという報告が複数あります。つまり大事なのは「糸で縫い付けること」自体ではなく、密着が4日間きちんと保たれているかどうか。
だから当院では、糸で縫い付けて1週間外さない従来型のタイオーバーではなく、枕子とテープ・包帯で同じだけの密着圧を作り、取り外せる形にしています。術後4日間は圧迫を続けますが、翌朝のシャワー時にいったん外し、傷の色・腫れ・出血を自分の目で確認してから、また同じように固定し直していただく。縫い付けてしまうと、中で何が起きていても4日間わからない。これが私の最大の懸念です。
ワキガ手術は保険でできる?
はい、腋臭症(ワキガ)の手術は保険適用で受けられます。3割負担で4〜5万円程度、静脈麻酔を併用しても約45,000円が目安です(確定金額はカウンセリングでご案内します)。
腋臭症とは、脇のアポクリン汗腺から出た分泌物を皮膚の常在菌が分解し、独特のにおいが生じる状態を指します。アポクリン腺は真皮の深いところから皮下脂肪の浅い層にかけて分布していて、思春期以降に活発になります。セルフチェックとしては、耳垢が湿っている、下着の脇が黄ばむ、親や兄弟に同じ悩みがある、自分では慣れて気づかないが家族に指摘された——このあたりが当てはまる方は、一度診察を受ける価値があります。
治療の選択肢は手術だけではありません。まずは制汗剤や外用薬。汗そのものを減らしたい方には、ボトックス注射という方法もあります。汗の量が主な悩みで、においは軽度という方には、私も注射をお勧めすることがあります。
ミラドライなどのマイクロ波を用いた照射機器もあり、汗の減少に伴いにおいが軽減するケースも見られます。ただし、アポクリン腺を完全に破壊・除去できるわけではないため、症状が残存する場合もあります。また、照射後に皮下組織が瘢痕化して硬くなってしまうと、将来的に外科手術を選択された際に皮膚の剥離操作が難しくなる傾向があります。過去に照射歴がある場合は組織の層が分かりにくくなるため、診察時にその旨をお伝えいただくことが大切です。
においの元を断つことを考えるなら、アポクリン腺そのものを取り除く手術が根本的な治療になります。海外のネットワークメタ解析でも、皮下の組織を直接処理する外科的な方法のほうが、レーザーなど単独の治療より良好な結果だったと報告されています。どの治療が向いているかは、診察で症状を確認したうえでご説明します。
保険診療の対象や流れは、こちらもあわせてご覧ください。 保険診療について見る 保険の料金を確認する
タイオーバー中の過ごし方と注意点

固定期間中にやるべきことは、たった一つ。「腕を大きく動かさない」。これに尽きます。具体的な流れをお伝えします。
STEP 1|手術当日
帰宅後は安静に。腕は肩より上に上げず、洗濯物を干す、高い棚の物を取るといった動作は避けてください。飲酒・入浴・運動は控えます。痛みは処方の鎮痛薬でコントロールできる程度のことがほとんどです。
STEP 2|翌朝
圧迫をいったん外し、シャワーを浴びていただけます。石けんの泡で傷の周りをやさしく洗って、押さえ拭き。このとき傷を観察し、処置の方法どおりに再び固定します。「翌日で固定が終わり」という意味ではありません。圧迫そのものは4日間続けます。
STEP 3|術後2〜4日
通院で創部を確認します。ここで血腫の有無、皮弁の色、固定圧の強さをチェック。4日目で圧迫固定は終了です。
STEP 4|抜糸まで
約28ミリの創部は、おおむね術後7〜10日で抜糸。それまでは重い物を持つ、腕を強く伸ばすといった動きは控えめに。
さて、ここからが差別化の核心です。固定は強ければ良い、というものでは決してありません。圧が強すぎれば今度は血流が止まり、皮弁が死にます。ご自宅で点検していただきたいのは次の四点です。
一つ、傷の周囲の皮膚の色。紫や黒っぽく変色していないか。二つ、指で軽く押して離したとき、白くなった色が2秒以内に戻るか(戻りが遅ければ圧が強すぎるサイン)。三つ、腕や指のしびれ、冷たさ。神経や血管が圧迫されている可能性があります。四つ、痛みの質。じわっと重い痛みは普通ですが、「締め付けられて我慢できない」「夜中に目が覚めるほど脈打つ」場合は、血腫か過圧迫を疑います。
この四点のどれかが当てはまったら、自己判断で我慢せず連絡してください。私がカウンセリングで必ずお伝えしているのは、「固定は医師と患者さんの共同作業です」ということ。手術室を出たあとの4日間は、見ていられるのはご本人だけですから。
ワキガ手術後の回復と再手術の可能性
回復の目安をはっきり書きます。圧迫固定は4日間、抜糸は7〜10日、腕を普通に動かせるようになるのが2週間前後、傷の赤みが落ち着いてくるのが3〜6ヶ月、という流れが一般的です。デスクワークであれば、固定が取れた術後4〜5日ごろから復帰されている方が多い印象です。
ただし正直に言うと、ここは教科書どおりにいかないこともあります。もともと脇の皮膚が厚い方、毛量が非常に多い方、汗をかきやすい季節に手術をした方では、滲出液が出やすく治りが数日遅れることがある。逆に、20代の患者さんで術後1週間の検診のときにはもう傷が落ち着いていて、「もう普通に生活しています」とおっしゃるケースも珍しくありません。年齢と皮膚の厚みで、治りの速度はかなり変わります。
再手術について。可能性はゼロではありません。小さな血腫が生じた場合は、縫合の一部を開けて血液を出し、再度圧迫すれば落ち着くことが大半です。一方で、広い範囲に皮弁壊死が起きたり、においの再発が強かったりする場合は、改めて処置や手術を検討することになります。再発の多くは取り残しが原因ですが、腋臭症に関する総説でも、アポクリン腺を物理的に除去する方法が治療の中心であり続けていると整理されています。だからこそ、私は直視下で腺を確認しながら切除する剪除法を基本術式にしています。見えないところを盲目的に削る方法では、どうしても取り残しの不安が残るからです。
銀座・東銀座エリアは通勤や買い物のついでに寄れる方が多く、術後の通院が組みやすいという利点があります。術後4日間の管理をきちんと診せていただける距離かどうか。これは意外に大きな要素だと感じています。
ワキガ手術とタイオーバーのQ&A
Q. タイオーバーの固定って痛いですか?腕は全然動かせないんでしょうか?
A. 強い痛みが続くことは多くありません。圧迫による張り感や突っ張りはありますが、処方の鎮痛薬で対応できる程度がほとんどです。腕は肘から先なら動かせますので、食事やパソコン作業は可能。肩より上に上げる動作だけ4日間控えてください。
Q. 固定のガーゼを自分で外してしまっても大丈夫ですか?
A. 指示された手順以外で外すのは避けてください。翌朝のシャワー時に外して洗い、同じように固定し直すところまでが一連の処置です。途中で密着が崩れると血腫のリスクが上がります。外し方・巻き方は術後に実演してお伝えします。
Q. 血腫ができたら、やり直しの再手術になりますか?
A. 多くは再手術までは必要ありません。小さな血腫なら縫合の一部を開けて血液を出し、再圧迫で経過を見ます。ただし放置すると皮膚が黒く変色して治りが長引くため、痛みが急に強まったり脇が腫れて硬くなったりしたら、すぐご連絡ください。
Q. ミラドライなどの照射を受けたあとでも手術できますか?
A. 手術は可能です。ただし皮下が瘢痕化して硬くなっていると、皮膚を剥がす操作が難しくなり、手術時間が延びることがあります。照射歴がある方は、診察のときに時期と回数をお伝えいただけると計画が立てやすくなります。
Q. 脇の臭いが気になるのですが、自分がワキガかどうか自信がありません。
A. 自分のにおいは慣れてしまうため、判断が難しいのが普通です。耳垢が湿っている、下着の脇が黄ばむ、家族に同じ体質の人がいる、といった点が手がかりになります。診察では衣類のにおいや汗の量も確認したうえでご説明します。
ワキガ手術とタイオーバーのまとめ
- タイオーバーは、薄くした皮膚を下床に密着させて血腫と皮弁壊死を防ぐ固定法
- 脇は動きが大きい部位のため、固定の精度が手術結果を左右する
- 当院は切開約28ミリ、圧迫は術後4日間。翌朝にはいったん外してシャワー可能
- 強すぎる固定は逆効果。皮膚の色・色の戻り・しびれ・痛みの質を自分で点検する
- 腋臭症の手術は保険適用。3割負担で4〜5万円程度(静脈麻酔併用でも約45,000円)が目安
- 抜糸は7〜10日、腕の動きは2週間前後で戻る方が多い
なお、効果や回復の経過には個人差があります。においの程度や皮膚の状態によって最適な方法は変わりますので、まずは診察で症状を確認させてください。
ワキガ手術のご相談は当院へ
リノクリニック東銀座
院長:宮﨑 邦夫(日本外科学会認定 外科専門医、外科経験20年以上)
所在地:東京都中央区銀座3丁目11-13 松本銀座ビル9階(東銀座駅から徒歩3分)
院では保険適用の腋臭症手術(剪除法・皮弁法)を中心に、患者様一人ひとりのお悩みに真摯に向き合っております。東京・中央区周辺で脇のにおいにお悩みの方や、これまでの治療で十分な効果を感じられなかった方は、どうぞお気軽にご相談ください。診察を通じて、最適な治療法をご提案いたします。
初診のご予約はこちら(WEB予約24時間受付)
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参考文献
- Marsidi N, Boteva K, Vermeulen SAM, et al. To Tie or Not to Tie-Over Full-Thickness Skin Grafts in Dermatologic Surgery: A Systematic Review of the Literature. Dermatol Surg. 2021;47(1):18-22. PubMed / DOI
- Morioka D, Nomura M, Lan L, et al. Axillary Osmidrosis: Past, Present, and Future. Ann Plast Surg. 2020;84(6):722-728. PubMed / DOI
- Sun P, Wang Y, Bi M, et al. The Treatment of Axillary Odor: A Network Meta-Analysis. Med Sci Monit. 2019;25:2735-2744. PubMed / DOI
- Kromka W, Cameron M, Fathi R. Tie-Over Bolster Dressings vs Basting Sutures for the Closure of Full-Thickness Skin Grafts: A Review of the Literature. J Cutan Med Surg. 2018;22(6):602-606. PubMed / DOI
監修者情報

宮﨑 邦夫
リノクリニック東銀座 院長【資格・所属学会】
日本外科学会専門医 / 日本外科学会会員 / 日本形成外科学会会員 / 日本頭蓋顎顔面外科学会会員 / 日本美容外科学会会員
消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・小児外科など外科研修ののち、外科専門医を取得。その後、形成外科で6年、美容外科で7年実績を積み、リノクリニック東銀座を開業、院長を務める。美容外科の技術は韓国や台湾、アメリカなどへ出向き、良質な技術を取り入れて日々の診療に生かしている。 2014年から在籍していた湘南美容クリニックでは指導医として若手美容外科医の教育にも尽力し、同院で行われた美容外科コンテストで2年連続ではグランプリを獲得。次の東京美容外科では骨切りメニューの立ち上げを行い、スタッフ教育にも尽力した。
監修日:2026.10.30



